クリエイターインタビュー|梅田 かおりさん(後編)
照明デザイナーの梅田かおり(うめだ かおり)さん。9年務めた東京の照明総合会社を退社し、フィンランドへ移住。現地の大学でモノづくりを学び、設備設計事務所で照明デザイナーとしてのキャリアをさらに積み、帰国しました。 縁あって仙台で「ライティングデザインスタジオ LUME」を立ち上げて以後、仙台のライティングシーンを牽引し続けている梅田さんに、お話を伺いました。
―今後、仙台でやっていきたいことはなんですか。
埋まっている仙台の魅力にもっと光を当てていきたいです。例えば、大崎八幡宮とか、作並の四十八滝といった、名勝や自然の景観を“夜も魅せる”みたいなことをやってみたい。
スウェーデンのアリングスオースという田舎町で、毎年、照明デザイナーを呼んで「Lights in Ålingsas」というライトアップのワークショップイベントが開かれていて。私も呼んでいただいたことがあるんですが、そんなことが仙台でもできたらいいなって思っています。
―どんなワークショップなのですか。
毎年ライトアップするポイントを変えて、コンセプト設定から実際のライティングまでを1週間で行うんです。ポイントは複数あって、それぞれ照明デザイナーとワークショップ参加者がチームになって行います。このイベントのすごいのが、出来上がった作品を展示している1カ月の期間に、市の人口の3倍も4倍もの人が作品を観に来ることなんです。
だから、例えば仙台で、瑞宝殿は誰々、仙台城跡は誰々、なんとか公園の桜は誰々ってデザイナーを決めて、ライトアップのイベントをやったらおもしろいと思うんです。
―仙台の名物イベントとして賑わいそうですね。
照明デザイナーだけじゃなくて、プロジェクトマッピングができるアーティストとか、映像系の人も呼びたいです。昔は、建物を照らすのは建物屋、舞台を照らすのは舞台照明、映像は映像屋ってできることが分かれていたけれど、今は設備が使いやすくなったり安くなってきたこともあって、職種の垣根がなくなってきている。だから、いろいろな人が関わった方がおもしろいことができるんじゃないかと思います。
―そういうイベントをやる際にネックとなるのが、お金や労力ですよね。コストを掛けたからには人も大勢呼ばなくちゃいけませんし。
私もいろいろなイベントをしてつくづく思ったんですが、照らすだけでは人は来ないんですよね。その経過にどれだけの人が関わったかどうかが重要なんです。
ものが出来上がったところにお客さんを呼ぶだけでは、それこそすごくお金をかけてすごいことをしないと見に来ないんですけど、例えばクリエイターだけじゃなくて、地元の子どもにもちょっとしたパーツをつくってもらったりしたら、それを見に家族が来るじゃないですか。そこが大事で、スウェーデンのイベントも地元の人がすごく協力してくれているので、だからこそ素晴らしいものになっていると思うんです。
お金にしても、そのイベントは市の予算も使いますが、設備機器は照明デザイナーの協会や照明メーカーが用意したり、ワークショップ参加者が参加費を払ったりしてみんなが負担しあうことで何年も続いています。
―地元の人が関わっていくために必要なことは何だと思いますか。
何のためにそれをやるかっていうところじゃないですかね。例えば、たくさんの人に来てもらいたくてライトアップをするのであれば、若い人とかはデートで来るわけだから、暗くなるまで食べたり飲んだりできるところがないと。そういうときに、地元のお店も目的意識をしっかり持っていたら「じゃあライトアップの間は営業時間を延ばそうか」ってなるんじゃないかと思うんですよね。イベントの目的を主催者だけではなく制作者も地元の人も共有するということが、難しいけどすごく重要なことなんです。
―その中で行政が求められる役割はどんなことだと思いますか。
コーディネーターになってもらえたらいいなと思います。関わる人のタレントを見極めて、誰が全体を見通せるかとか、この人は地元に顔が利くからリーダーになれるかもしれないとか。もしくはそういう力になりそうな人を引っ張ってくるとか。だから、その準備として、仙台にどういう人がいるのかを知っていてほしいです。仙台の良いところは、狭いがゆえにいろいろな人と知り合いやすいところだと思うので。都会だったら知り合う確率がほとんどないような、大旅館の社長とか建物のオーナーみたいなキーパーソンになりそうな人とも知り合えたりする。そういう人を知っていると、何かやろうとなった時に話が早く進むんじゃないかと思います。東京ではそういうふうにはならないですから。
―照明デザイナーと呼ばれる人は仙台には少ないと思うのですが、若い人が弟子入りに来ることはあるんですか。
時々来ます。ヨーロッパから問い合わせが来ることもあるし、仙台だと学生さんとか。以前来ていた子は、スカイツリーの照明を手掛けた会社に就職してそのプログラムを組む仕事や照明デザインをしていましたが、今はシンガポールの照明デザイン事務所で働いています。
本当は、やりたいって来る人を受け入れるだけじゃなくて「こういう職業があります」っていうことを自分から発信していかなきゃいけないと思っているんですが、なかなか手が回らない状態です。
―若いクリエイターに対して、感じることはありますか。
クリエイターではないですが、学生がおとなしいなって思います。大学で非常勤講師をしている中で感じることで、みんなエネルギーをなるべく使わないようにしているように見えます。「とにかくやってみよう!」みたいな感じよりも、「単位が取れる最低限のことしかやらないでおこう」みたいな。コミュニケーションでもそうで、友達とは普通におしゃべりしたりするけど、授業とか知らない人同士の中ではほとんど自己表現しないんですよね。
―確かに最近、学生さんがおとなしいとか、意思表示をしないから何を考えているか分からないといったことはよく聞きますね。
そうなんです。授業中はほとんど発言しないしリアクションもないから、ほんとに聞いているのかなって思うんですけど、最後にレポートを出してもらうとみんなびっしり書いてくるから、ちゃんと聞いてたんだなって。
意思表示が少ないことは悪いことではないですが、コミュニケーションってすごく大事な能力じゃないですか。仕事でも、アイデアとか意見をバンバン口に出す人がいた方がいいと思っていて。自分の中で整理した意見だけを言う人もいますが、思いついたことはとりあえず表に出してみないと、それがみんなの共通認識なのかも分からないし、いいアイデアなのか悪いアイデアなのかも分からない。それに、いろいろな意見を出し合うことで、意外なきっかけですごくいいアイデアが出てくることってよくあるんです。何かをつくり出す仕事では、なおさらディスカッションは大切な過程なので、若い人にはもっと積極的にコミュニケーションを取ってほしいと思います。
―クリエイターを目指す人に期待すること、伝えたいことはありますか。
「外に出て、また帰ってきなさい」と言いたいです。一回出て行って、いろいろ見て、吸収して、帰ってきてそれを還元する。違う環境に自分の身を置くっていうことをしてほしいなと思います。
―梅田さんのように、フィンランドへ行ったり?
他の土地に行くことができれば一番いいですが、会社の中でちょっと違う部署に移るだけでもいいと思います。クリエイターに限らず、市役所の方もそうだと思うんですけど、ずっと同じ所にいたのでは、人脈も広がらないし、マンネリ化していい仕事が出来なくなってくるじゃないですか。だから、できるだけいろいろな所に出て行った方がいいと思います。
あと、起業を目指している人だったら、経営のこともしっかり勉強しておくこと。アメリカとかヨーロッパでは、学校でも経営学を教えているけれど、日本ってお金を稼ぐことはなんとなく汚いイメージだからか、学べる場がすごく少ないですよね。
―お金儲けみたいなイメージは確かにありますね。
それが大間違いなんです。当たり前ですけど、お金をきちんと稼げなかったら経営は回っていかないですよね。私も経営はまったく学んでこなかったので本当に困って、今勉強中です。
―経営に関して起業する上で外せないことはどんなことですか。
自分の仕事の対価はいくらで、掛けるコストはここまでにするとか、こういう依頼は引き受けても、それ以上はやらないっていうことをきちんと決めて、管理することだと思います。そういう経営感覚みたいなものをしっかり持っておかないと、私みたいに起業してから苦労します(笑)。なんでも引き受けてしまって、やった分だけの利益に結び付かなかったり。クリエイターは特にその線引きをしっかりして、クライアントに対しても明示していかないといけないんだと思います。
取材日:平成29年7月19日
聞き手:SC3事務局(仙台市産業振興課)
構成:岡沼 美樹恵
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梅田 かおり
1989年千葉大学工学部工業意匠学科を卒業。1989年‐TLヤマギワ研究所照明計画室、1998年‐ヤマギワ(株)商品企画開発室勤務。1998-1999年フィンランドのヘルシンキ芸術デザイン大学(現アアルト大学)にてモノづくりを学び、2000年‐現地の設備設計事務所に照明デザイナーとして勤務。2005年 帰国後仙台でフリーランスの後、2006年ライティングデザインスタジオLUMEを開設。
〔照明計画空間分野〕
空港、オフィスビル、住宅、店舗、ホテル、学校、老人ホーム、博物館、美術館、ライトアップ、町全体の外構、イベント、その他