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鈴木杏

10月7日(水)くもり

めっきり寒くなってくると、毎朝鉄瓶を火にかける時間が楽しい。最近は、湯垢をつけるためのドーピング(意図的に硬水を沸かし、日本の水道水では付着しにくいミネラル分を鉄瓶に補給する行為)を楽しんでいる。白湯を飲みながら、ホカホカの鉄瓶をお腹に抱えてメールチェックをする。来月までは、オンラインの稼働もいつもより多いし、ありがたいことに装飾の案件も少しずつ増えてきた。ミシンをしているとパソコンができないから程よい塩梅が難しいところ。

10月8日(木)あめ

10月8日は「マスカット記念日」ということになっている。これはちょうど一年前、シェアオフィスTHE 6でスタッフをしていた頃、同施設の先輩スタッフでもあり会員のグラフィックデザイナー加賀谷さんが誕生日プレゼントに大きなシャインマスカットをくれたことに由来している(私の誕生日は9月なのだが)。シャインマスカット一房を独り占めできる夢が叶った瞬間だった。今年は友人がナガノパープルをプレゼントしてくれた。甲斐路という品種にハマってから計画していた山梨のぶどう狩り旅行は長野に変更かと思いきや、こんなご時世なので叶わず行きたい果樹園ばかりが増えていくのだった。

10月10日(土)あめ

お客様は、週明けに1歳になる男の子。お母さんの雰囲気と、いつもニコニコしている彼の様子から、元気な色の組み合わせがいいなと秋色の葉っぱのガーランドを引っ張り出した。はんだごてを片手にバリがないかメンテナンスをしてロープの絡まりを解いていく。頭の中では「あれも作りたい」「こんなのもあったら喜ぶかな」とトランクの中の布と照らし合わせ始めているけれど、いつも直前になってこんな風になるのだから困ったものだ。

10月2日(金)はれ

学生時代から変わらない風景。色鉛筆や折り紙を広げるように布を部屋中に広げて組み合わせを考え始めると夜は更けていく。2年前の冬に「ワニにしよう」と購入したコーデュロイの古着のずっしりとしたスカートは、未だハサミを入れられないままだ。これが終わったら週明けに控える盛岡への準備……気持ちを高ぶらせるために美味しそうなご飯とお酒が登場するドラマをパソコンに再生し続けてもらう。この雨で庭のキンモクセイが散ってしまうと思い、昨日のうちに枝を数本部屋に持ち込んだ。毎年キンモクセイシロップを作っては、使いきれずに廃棄するから今年はやめた。シロップの中でふよふよ浮遊する星のようでなんとも可愛いのだけれど。

10月12日(月)あめ

小さな布クズが部屋中に蔓延して、鼻がむずむずして起きた。7時のバスで盛岡に行こうかと思っていたけれど、昨日の夜の時点で新幹線に変えてよかったと心底思っている。頭の中でパッキングのシミュレーションをしていたら、そもそもキャリーケースがないことに気がつき、飛び起きて弟からキャリーケースを拝借。その流れで部屋も元に戻し、発送の手配をして予定より2時間遅く家を出た。一年ぶりの盛岡、二戸でデザインの仕事を頑張る親友タナカミキと合流。本降りの雨に足止めを食らって早々にホテルへ帰り近況報告をした。

10月13日(火)はれ

ホテルのカーテンを開けたら、目の前に青空と開運橋と岩手山がドーンと広がっていて、なんとも気持ちがいい朝だ。行きたいお店がありすぎるほどだったが、ことごとく火曜定休で撃沈。昨日の雨降りの反動か、ここまで天気がいいとどこまでも歩いて行けそうな気持ちになった。ホテルに帰ったら記事を完成させてしまおうとか、構想中のインスタグラムのアカウントを作ろうとか、そんなことばかり考えていた。思えば、仙台は秋になるとどこもかしこもキンモクセイの香りがするのに、盛岡はしないなあ。

盛岡といえば内丸の街並みが好きだ。無性にしょっぱいものが食べたくなって、いつも躊躇して入店できなかった「GANJU」の暖簾をくぐってみた。ラーメン400円。餃子を半分こしてもひとり600円とワンダフルだった。すでに若干伸びている麺は、食べても食べても減らないしスープが消えていく。最低限のトッピングは親戚の家で食べるラーメンみたいでこれはこれでよかった。それからタナカを改札まで見送って、ホテルで来月の出店のイメージをまとめる。できれば、生地探しを盛岡の古着屋さんで終えたかったがどうにも難航しそうだ。

写真と文 = 鈴木 杏

岩手県釜石市生まれ、盛岡育ち。ファブリックメーカー、キャンドルショップ、専門学校非常勤などを経験し、シェア型複合施設THE6のスタッフとして運営に携わる。
2020年よりフリーランスとして活動中。仙台と岩手の二拠点生活練習中。

Instagram : tyag_tyag / an56mochi_

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