クリエイターインタビュー後編|泉友子(イラストレーター)
コロナ禍は、クリエイターもわたしも記憶がない!
― コロナの影響は大きかったでしょうか。
近年は仙台や宮城の名物をモチーフにした雑貨を多く扱い、「かわいい仙台みやげを買える店」というイメージになっていました。旅行ガイド本に紹介いただいたこともあり、お客様のうち6割近くが観光客でした。コロナの影響で人の動きがなくなった打撃は大きく、2020年、21年の売り上げはコロナ前の3~4割にまで激減。併設するクリエイター向けのレンタルスペースもキャンセルが相次ぎました。
一時的な落ち込みなら乗り越えられますが、少し回復しても、コロナが増えれば、すぐまた大きく下がるの繰り返しが1年、2年……終わりが見えないことがつらかったですね。
― クリエイターの方々の様子はどうでしたか。
コロナ禍の2年くらいは、ほとんど作家さんに会っていないんですよ。作品は宅急便で送ってもらって、メールで連絡。お客さんも少ないので、そんなに売れない。ネット通販で売上を伸ばせる人もいましたが、バイトをしている方もいました。イベントもないし、何かが起きるわけでもない淡々とした日々なので、私もですけど、なんか記憶がないんですよ。気づいたら「あれ、季節が変わってる」みたいな。
だから今、活気が戻り始め、イベントも増え、気持ちが前向きになって制作意欲が出ていると思います。メリラボを使う作家さんを見ていると、対面でお客様と顔を合わせて販売できてイキイキしています。コロナ前の日常って、幸せだったんですね。
今年(2022年)の11月に、クリエイター参加するエコバッグ・トートバッグ展を開催予定です。私もイベント企画が久々なので、実はドキドキしています(笑)。
― 売り上げが3~4割にまで落ち込んでも、事業を継続してこられた原動力は何でしょうか。
周りの皆さんが踏ん張っていたから。自分だけだったらとっくに辞めてます(笑)。クリエイターも、人を集める商売をする事業者も、飲食店もみんな同じように苦しかったわけなので。
レンタルスペースはキャンセルも多くて、予定表が“キャンセルだけ”の月も。それでも開催する人もいたし、実際に開催すれば多くはなくともお客様は来ていました。表現する場所、人と会う場所がコロナでも切実に求められていることを痛感しました。なので、とりあえず開けていました。
観光地に「おみやげ自動販売機」の新事業
― 新しい事業として観光地におみやげの自動販売機を設置されました。
最近ユニークな自動販売機が増えていることをヒントに「おみやげの自販機はあまりないのでは?」と思いついて。人手が不要で人件費もかからず、非接触だから感染の不安はないし、土産店が開いていない時間にも利用できるとメリットが多い。「自分が描いたイラストで大きな自販機を全面ラッピングできるのは楽しい」とも思いまして (笑)。観光地といえば「顔はめパネル」でしょ、二つセットで置けば通りがかりの人は足を止めてくれると考えました。
― 設置場所はどのように決めましたか。
複数の観光地で交渉をしましたが、コロナが激増した時期と重なりなかなかうまくいきませんでした。コロナで観光客がいない時に観光地巡りをしていて、蔵王町の遠刈田温泉を歩いていたら、プリンと雑貨の新しい店がオープンしていて、ショーウインドウ越しにかわいらしいこけしと目が合ったんです(笑)。
すてきだ!と思って改めて商店街をよく見ると、他にも新しい店ができているし、老舗はきちんと伝統を守っていて、昔ながらの佇まいに今風のデザインを施した店も。「ここに自販機を置くのがいいかも」と印象に残っていました。その後、ありがたいご縁が重なって、目抜き通りにあるアトリエ蔦風庵さんの店先に設置できることになりました。
― 設置してからの反響は。
「派手で目立つから車で通ってもすぐ分かる」と言われます(笑)。交差点の角という立地も幸運でした。蔦風庵のオーナーからは「自販機にお客さんが足を止めるおかげで、うちのお客さんも増えたの」と言っていただき、ホッとしています。お互いにウィン・ウィンの関係になりたかったので、少しはお役に立てているならうれしいです。
写真をSNSにアップしてくれる人も増えました。先日は「遠刈田で買ったおみやげが気に入ったから」と仙台の店に来てくれた人もいます。商品は10種類入りますが、今後、より遠刈田らしい絵柄で、思い出になる、かわいい作品になるよう中身を充実させていこうと計画中です。来年1月からは、焼き菓子つばめどうさんとコラボで、オリジナルクッキーも販売します。
「お絵描き人生」は続く
― 今後の展開はどのように考えていますか。
遠刈田と同時期に松島にも松島バージョンの自販機と顔はめパネルを設置しました。将来的には宮城県内の他の観光地にも進出したいと目論んでいます(笑)。
実はコロナ前から店のあり方を模索し始めていました。メリーメリークリスマスランドとしては、実店舗にこだわらず、ネット通販や卸販売の充実を含めた、メーカーへの道を考えています。コロナ禍を経て、創作したい気持ちが強くなっているので、2023年は、ディープに制作活動に取り組みます。
ここ数年、取り組んでいるのがこけしです。工人と組んでの創作こけし「旅こよみこけし」で、2015年グットデザイン賞をいただいたのがきっかけで、創作こけしを作り販売する場が増えました。10月から、津軽こけし館の企画イベントにも出させていただいています。伝統こけしも勉強しつつ、創作こけしなので、ものすごく自由に作っています。ろくろをまわして、こけしコンクールに出るのが夢です(笑)。
― 長年活動し作品もたくさん作られて、それでも「まだこれから、もっと」という思いはどこから湧いてくるのでしょうか。
気づいたら、あと何年制作できるかなと考えることも多くなりました。大好きなミロやピカソは長寿で、最後まで毎日多くの作品を残していて、美術展で見たその生き様に圧倒されて、敬服しています。だからこそ、憧れのミロに1ミクロンでも近づくために、私の「お絵描き人生」に終わりはないんです。
― 貴重なお話をありがとうございました。
泉さん(合同会社メリーメリークリスマスランド)は、おみやげ自動販売機の設置に国の「小規模事業者持続化補助金」を活用されています。
詳しくは仙台市が作成した補助金活用事例集(PDF:7.04 MB)をご覧ください。
取材日:令和4年10月11日
前編 > 後編
泉友子
イラストレーター
合同会社メリーメリークリスマスランド代表。
1986年からフリーのイラストレーターとして活動開始。
個展・グループ展に多数参加。「旅こよみこけし(2015)」「マッチ箱マガジン(2013)」でグッドデザイン賞受賞。
メリーメリークリスマスランド(Webサイト)
https://merimeri.biz/