クリエイターインタビュー前編|建築ダウナーズ(空間・什器設計/制作ユニット)
個人の活動を軸に、プロジェクトごとに集結するチーム
東北大学大学院の同期4人による、空間と什器設計・制作を行うユニット『建築ダウナーズ』。在学中に携わった展示空間のデザインを機に、美術家や会社員、非常勤講師など各々に仕事を持った今も、協働で活動を継続されています。メンバーの現在の仕事やこれまでの活動についてお話を伺いました。
― 皆さんは、東北大学大学院の同期なんですよね。
(菊池)都市・建築学専攻という建築の学科で、五十嵐太郎先生の研究室で一緒になりました。この研究室は、建築理論や建築意匠の研究を専門としていて、意匠設計を志す人が多く在籍しているところでした。そのほかにも、五十嵐先生は美術展のキュレーションも手掛けていたり、書籍を多く出したりもしていたので、展示関係のプロジェクトや本の執筆・編集を研究室で行うこともありました。
― 『建築ダウナーズ』を結成されたのは、大学院卒業後?
(菊池)私たちが研究室に在籍している時に、ちょうど展示のプロジェクトがたくさんあって、展示空間や什器の設計・制作を一緒にしていました。私たちは、その流れで集まったメンバーです。
(吉川)もともとは私たち自身で「ユニットを組んで活動をしたい」とはじめたわけではなく、在学中に私たちが作った展示や什器を見てくれていた、せんだいメディアテークの清水建人さん(キュレーター)に声をかけていただき、メディアテークでのプロジェクトを一緒に行ったのがはじまりです。ユニット名も清水さんの「君たち、ダウナーズっぽいね」という一言がきっかけで決まりました。
(菊池)それを機に、たまたま私たちの仕事を見てくださった方から依頼をいただくようになって、活動を続けています。普段は各々の活動をしながら、ダウナーズでの仕事は規模に合わせてその時々で集まって行っています。
― お仕事の依頼がある毎に集結されているんですね。菊池さん、千葉さん、白鳥さんは仙台在住と伺いましたが、吉川さんは2021年の12月から盛岡在住とのこと。2拠点での活動は大変なのでは?
(吉川)締め切りが重なってしまうと忙しく感じたり、私は普段仙台におらず平日は稼動できない場合も多いので、図面作業や資料作成などの遠隔でもできる部分を担当させてもらっています。締め切り直前のハイペースな判断が求められる場面は他のメンバーが対応してくれるので、有難いです。実際に什器を作る段階では、週末など仙台に足を運べるタイミングで私も制作に参加しています。
勤めている設計事務所はフレックス制なので「やることさえやってくれれば、問題ないし、今でも大学時代の仲間と仕事ができる機会があることは、有難いことなのだから頑張りなさい」と応援してくれています。
― 仙台在住の皆さんは、スタジオ開墾にアトリエを借りられているんですね。
(千葉)白鳥とは『荒物屋』という名前でも活動しています。学生の時にアパートの一室を改修するお仕事があり、その時に今後も何か作る機会がありそうだなと思い、スタジオ開墾のブースをお借りしました。
(千葉)学生の頃から作ることが好きで大学院を卒業し、そのままフリーランスとして制作活動をはじめました。現在はアーティストの方の作品制作や展示設営の仕事をしたり、知り合いの建築家の方が声をかけてくださり、お手伝いをしながら勉強させていただいています。
ほかにも『スローウォークセンダイ』という活動もしていて、白鳥と吉川とダンサー・振付家の千葉里佳さんと4人で、仙台のアーケードやペデストリアンデッキなどの街中をゆっくり歩くという活動も不定期に行っています。
― 白鳥さんは母校である仙台高等専門学校(以下、高専)の非常勤講師をされていますが、担当教科ではどんなことを?
(白鳥)グラフィックデザインを担当しています。恩師の坂口大洋先生から「何でも好きなことを教えていいから、高専で教えてみないか」とお誘いいただき、挑戦することにしました。
今は高専2年生にグラフィックデザインの基本的なノウハウと絡めて、映画や建築について紹介しています。もともとジャンルを問わず、映画がすごく好きで「建築と映画」をテーマに修士論文を書いたほどです。映像を作ることも好きなので、学生時代には仲間と映像作品を作ってコンペに応募したりもしました。今でも、研究室の先輩の佐久間雄基さんと「建築と映画」に関するコラムサイトを運営しています。
『S・F・A:空想建築』 https://www.sf-architect-cinema-sendai.com
また、劇場計画をされていた坂口先生の影響で劇場にも興味があり、今は劇団かもめマシーンさんの美術のお手伝いもしています。2019年にはじめて関わった『しあわせな日々 / HAPPY DAYS』では、演劇現場が全くの初心者であまり貢献できませんでしたが、現場の熱量や私自身の未熟さを肌で感じることのできる機会でした。
『劇団かもめマシーン』 https://www.kamomemachine.com
― 制作現場や演者のエネルギーは圧倒されますよね。菊池さんは、美術家として個人の作家活動だけではなく『PUMPQUAKES(パンプクエイクス)』というアーティストグループにも所属されているんですね。
(菊池)写真家・キュレーター・映像作家のメンバー5人と協働で制作や読書会、展覧会の企画などをしています。
『PUMPQUAKES』 https://www.pumpquakes.info
個人の作家活動では、風景をテーマにした絵画作品や空間インスタレーションを発表しています。美術の専門的な勉強をしたことはなかったのですが、小さい時から絵を描くのが好きでした。在学中の2017年に展示で作品を発表するようになり、最近では2021年にせんだいメディアテークで開催された『ナラティブの修復』で「荒れ地」の風景を描いたドローイング群を会場の床に自立する形で展示しました。
― 皆さんの中には、海外や県外へインターンされている方もいますね。
(菊池)私は2017年からインドネシアのジョグジャカルタに1年間留学し、現地の建築家や建物のリサーチを行いました。この経験は修了後の展示活動にも繋がりました。
(吉川)それに続いて、私と千葉も「卒業するのはまだ早いよね」と偶然同じことを思っていたので2人とも休学し、私はベルリンの設計事務所でインターンを行いました。
(千葉)そうですね。大学院時代の1年目がすごい勢いで通り過ぎていき、不安になったんです。それで私は1年間休学することにして、半年間はアパートの内装を改修するために設計と施工を行った後、大阪の設計事務所へインターンをさせていただきました。
(白鳥)私は県内でインターンをしていました。私たちの研究室は自由度の高いところだったので、他の研究室に比べると休学や留学する人は多かったように思います。
― インターンや留学先での経験から、ユニット活動をする上で得たものはありましたか?
(千葉)知見が広がったと思います。インターン先の設計事務所が、美術家と協働で制作をすることも多く、とても影響を受けました。
(菊池)ジョグジャカルタでは、アーティストのコレクティブ(集まり)と出会う機会がたくさんあり、メンバー構成や活動の在り方も様々で選択肢が一つではないことを知り、刺激になりました。
建築ダウナーズ(けんちく・だうなーず)
空間・什器設計/制作ユニット
東北大学大学院都市建築学専攻の同期である、菊池聡太朗さん/千葉大さん/白鳥大樹さん/吉川尚哉さんの4人が協働し、空間と什器設計・制作を行うユニット。在学中より展示デザインなどに携わり、大学院卒業とともに結成。現在は菊池さんと千葉さん、白鳥さんは仙台在住で、吉川さんは盛岡在住。各々に仕事を持ちながら、プロジェクト毎に集結して制作を行っている。
『建築ダウナーズ』Instagram https://www.instagram.com/kenchiku_downers/
菊池 聡太朗(きくち・そうたろう)
美術家。1993年岩手県生まれ。仙台市在住。2019年東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻修了。風景を主題としたドローイングやインスタレーション作品を発表する。主な個展『GOOD LANDING』(Gallery TURNAROUND、2022)、主なグループ展『ナラティブの修復』(せんだいメディアテーク、2021)。アートコレクティブ『PUMPQUAKES』にも参加。
千葉 大(ちば・だい)
フリーランス。1992年宮城県出身、仙台市在住。2019年東北大学大学院都市・建築学専攻修了。内装・什器の設計や施工をはじめ、家具製作や展示の設営などに携わる。『荒物屋』、『スローウォークセンダイ』に参加。
白鳥 大樹(しらとり・だいき)
仙台高等専門学校非常勤講師。東北工業大学非常勤講師。1992年仙台市出身、在住。2018年東北大学大学院都市・建築学専攻修了。千葉とともに、日常的に身の回りにある素材・建材を用いて建築空間の設計を行う『荒物屋』を展開。立体物のみならず、映像作品などの制作や『スローウォークセンダイ』の活動も行う。
吉川 尚哉(よしかわ・なおや)
一級建築士事務所NoMaDoS意匠設計部。1992年岩手県出身。2019年東北大学大学院都市・建築学専攻修了。都市・園芸・暮らしなどに纏わる興味や懐疑心を語り合うPodcast番組『俺たちの裸ヂオ』を友人と共に主宰し、断続的に配信中。『スローウォークセンダイ』のメンバー。