クリエイターインタビュー前編|黒川 美怜(イラストレーター/グラフィックデザイナー)
確かな仕事をするために、目の前のことに真摯に向き合っていきたいんです
仙台でイラストレーター/グラフィックデザイナーとして活躍する黒川美玲さん。慌ただしい日々を忘れてしまうようなホッとする素朴な味わいが魅力のイラストやデザインは、どのようにして形成されてきたのだろうか。グラフィックデザインを専攻していた学生時代を中心にお話を伺った。
―ご出身は仙台市ですか?
生まれは福井県ですが、1歳にならないうちに父親の仕事の都合で名取市に引っ越しました。そのまま小・中学校は名取市で、高校は仙台市の普通科に通っていました。
―東北芸術工科大学でグラフィックデザインを専攻していたとのことですが、高校生の頃からデザイナーになると決めていたのでしょうか?
最初は司書になりたくて高校は進学校に通っていたんです。図書館が大好きで、ずっとそこで仕事ができたら幸せだなと思って。だけど、当時仲良くしていた友達が突然「美術予備校に行く」って言い出したんです。そこで初めて美術予備校の存在を知って「私も行ってみたい!」と思い、それから進路が180度変わりました。
―高校時代は美術に興味があったんですね。
そうですね。元々絵を描くのは好きでした。部活も美術部に入っていて、のんびりと活動していました。
―グラフィックデザインを専攻したのはなぜですか?
本が大好きで幼い頃は小説家になりたいと夢見ていたのですが、残念ながら文章力が全くなかった。じゃあ私には何ができるのかと考えていたら、高校生の頃に美術も仕事になることを知ったので、その分野で本にまつわる仕事はないか調べました。そんな時、本のカバーや紙をはじめ、本の全てを設計する装丁家という職業があることがわかって、その仕事に近づくために大学でグラフィックデザインを専攻したんです。ちなみに今『本をつくる』(河出書房新社, 2019)という本を読んでいて、元気のないときに真摯にものづくりをしている人たちの本を読むと勉強になるし、初心に帰ることができます。
―大学時代はどのように過ごしていたんですか?
とにかく「ものづくり」が好きで、授業の評価や課題とは関係ないところで自主的に制作したりしていました。大学内に展示スペースがいくつかあるんですけど、そこを友人5~6人で借りて定期的に絵本展を開催していました。絵本作りが好きな人とか、絵を描くのが好きな人、お話を作るのが好きな人たちで絵本を作って、それぞれの完成品を展示したんです。
―黒川さんが作っていた絵本はどのようなものだったのでしょうか?
私は子どもの絵を描くのが好きで、動きとかシルエットになんとも言えない魅力を感じるんです。だから子どもに関する絵本が多いですね。眠れない子どもの話とか。あとは、切り絵の影から何か見えるものはないかなと思い、絵本を開いた時に切り絵が立体的に立ち上がるような仕掛け絵本も作りました。寝る前にスタンドライトに照らされながら絵本が読まれることを想定して、楽しんでもらえる仕掛けを考えたりしていました。絵本のページをめくるたびに変化していく絵のテンポとか、絵や文字の構図などの視覚表現が面白い世界だなと思って学生の時に制作していたんです。
―学生時代、制作をするなかでイラストやデザインで影響を受けた人はいますか?
例えば、当時作っていたものではエドワード・ゴーリー(※1)のような雰囲気で子どもの絵を描いた絵本もあります。あとは、酒井駒子さん(※2)、林明子さん(※3)、いわさきちひろさん(※4)の絵本は、さりげない子どもの仕草がとても可愛くて大学生の時はたくさん見ていました。
(※1)エドワード・ゴーリー(1925-2000):アメリカの絵本作家。不気味で不条理に満ちた世界観と美しく韻を踏んだ文章、繊細なモノクロームの線描が特徴。
(※2)酒井駒子/さかい・こまこ(1966-):絵本作家。繊細なタッチで儚く寂しげな子ども達を描き出している。
(※3)林明子/はやし・あきこ(1945-):絵本作家。子ども達の繊細な心の揺らぎを丁寧に描き出している。
(※4)いわさきちひろ(1918-1974):画家、絵本作家。「子どもの幸せと平和」をテーマとした。
―大学卒業後、就職先に東京のデザイン会社を選んだ理由はなんですか?
グラフィックデザインを専攻した理由に本作りに携わりたいという想いがあったので、就活では本作りができそうな会社を探していましたが、当時、装丁のお仕事は経験者が求められていて新卒で就職するにはかなり厳しい世界でした。でも幸運なことに、普段は地元の企業が多く紹介されている大学の求人に偶然にも東京の会社があって、詳しく見てみたらエディトリアルデザインの会社だったんです。「ここしかない!」と思い就職を決めました。
―会社ではどのような仕事をされていたんですか?
主にレイアウトですね。雑誌を中心に制作する会社だったのですが、グルメとかアウトドア、バイク、ライフスタイルなどジャンルが多岐に渡る雑誌を出していたので、1冊を4人体制で受け持っていました。私は1ヶ月に2~3媒体は担当していたので、普段は興味のないジャンルのお仕事ができてとても勉強になったし面白かったです。私の仕事について当時の上司が語った「派手さはないけど確かなものがある」という一言が、今も仕事をするうえで指針になっています。
取材日:令和元年10月4日
撮影協力:アズタイム
取材・構成:佐藤 綾香
撮影:小泉 俊幸
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黒川美怜
1987年生まれ、仙台市在中。東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科卒業。東京のデザイン会社にて主に雑誌デザインに携わり、2016年よりフリーのデザイナー・イラストレーターとして活動。
印刷物やイラストをメインに制作を行います。2018年より東北芸術工科大学企画構想学科 非常勤講師。