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クリエイターインタビュー後編|小林 知博(デザイナー/株式会社コミューナ)

行きたい方向に進んでいったら、今につながった。

建築学科卒業後にデザイナーへと転身、2018年10月には仙台の市街地から鳴子温泉に移住——。小林知博さんは、仙台・宮城という地を拠点にし続けながらも、働く/暮らすという営みにおいて、独特の足取りで環境を切り開いてきた人でもある。自分らしい生活・仕事ができる環境とは? そんな問いについて考えるべく、小林さんの日常について伺った。

 

—ご出身は多賀城市なんですよね。大学や就職先も仙台市内ですが、県外に出たいと考えたことはなかったんですか?

行きたい方向に進んでいったら県内にいたという感じで、あんまり場所を意識していたわけではなかったですね。インターンで東京の渋谷に数週間住むことがあって、環境的に馴染めないなと感じることはありましたが(笑)。

—以前は仙台市の中心部にお住まいでしたが、生活・仕事の場を鳴子に移されました。どのようなきっかけがあったのでしょう?

桜井こけし店(※前編参照)との仕事で、度々鳴子に来るようになったことは一つあります。次第にプライベートでも妻と訪れるようになって、山のある景色や町の雰囲気が気に入って。人もすごく優しかったので、住んでみるのも良さそうだなと。妻も仕事を辞める時期だったので、移住に向けて家探しを始め、今の家をようやく見つけて引っ越したという感じです。

—環境が大きく変わりますよね。勇気がいる決断だったとも思うのですが。

勇気はすごくいりました。田舎のほうに住むのは初めてで、周囲からも「大丈夫?」と驚かれましたし。でも来てみたら、小さな町にコンパクトになんでも揃っているというのがわかりました。ごはん屋さんもあるし、お菓子屋さんもあるし、温泉もあるし。意外と住みやすいですよ。あとはやっぱり、みんな互いに知っているような間柄なので、仙台に住んでいたときよりもずっと人付き合いがありますね。

よく訪れるという西條菓子舗にて。日々のお茶請けや、手土産を買いに来るそう。

—会社とは遠隔でやりとりされているそうですが、難しさ、あるいはメリットはありますか?

会社としては、デスクを隣り合わせて仕事をしていたのが急に離れるので、コミュニケーションが取りにくくなるのではないかという不安もあったようです。でも、桜井こけし店の仕事をより円滑に進めていこうと、あとは県北や山形に近づいたからこそ、新たな仕事につなげようと、攻めの姿勢で前向きに考えてくれて。普段は電話やチャットを使って連携し、基本的に週1回と、打ち合わせがあるときは仙台のオフィスにも行っています。メリットは、自然がよく見える静かな環境で、僕が気持ちよく仕事ができるという(笑)。

—実際に鳴子に住んでみて、何か変わったことはありますか?

普段は夜、近所の共同浴場で温泉に入っているんですよ。最終の入浴時間が21:30なので、それまでに入らなくてはいけないというルールができると、仕事にも区切りが生まれて。そこでひとまず締めるというサイクルができました。いつまでもずっと仕事をしているという感じではなくなったかもしれないですね。

—町の時間軸から、リズムができてきたわけですね。

そうですね。あとは、自分らしいデザインってなんだろう?と、前より意識するようになったと思います。入社して6年目になるので、主体的にプロジェクトを動かすことが増えたというのもありますが、以前は会社にいて、上司の指示やアドバイスを受けながら考えることがもっと多かったかなと。今は徐々に、一人で考える時間もできてきていますね。

―今後取り組みたいことはありますか?

毎年目標を立てているんです。きっとデザイン学科で学んでいたら、「今回はフライヤーをつくります」といったように鍛錬のステップがあったのかもしれないのですが、僕は本当に何も蓄積がなかったので。だからこそ、「こういうのをやってみたい」という思いは常にあるんですよね。昨年はブランドロゴを目標にしていて、いくつか実際にお仕事をいただくこともありました。今年はパッケージをやってみたいですね。実際に形にする難しさはあるけれど、おもしろそうだなと思います。

—では最後に、仙台・宮城でクリエイターとして働きたいと考えている人に向けて、メッセージをお願いします。

建築を学んでいた学生の頃は、難しい本を読んで頭でっかちになってしまうこともあったのですが、やはり自分の体と手を動かすことで、ものごとの実際の状況や、そのときにやるべき仕事がわかってくるというのはあると思います。悩むよりは、実地に関わっていくほうが、もっと先へ行けるような気はしますね。

取材日:令和元年7月22日
撮影協力:西條菓子舗
取材・構成:鈴木 瑠理子
撮影:小泉 俊幸

前編 > 後編

小林知博

1986年宮城県多賀城市生まれ、大崎市鳴子温泉在住。
東北工業大学大学院工学部建築学科修了。2014年より株式会社コミューナに入社し、デザイナーを務める。地域や企業の魅力を受け手に伝わるヴィジュアルに「翻訳」するデザインを心がけている。

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