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デザインココ(後編) アーティストへの階段と薬事の壁と

日本のポップカルチャーが世界的に注目される中、海外展開を図る千賀社長が見据える最終的な目標は「アーティスト」。2次元の絵を立体化する工程で創造性が発揮されることは疑いようもないが、そのクリエイティビティーを正当に評価されることはまだ少ないという。一方ではこれまで培った技術の活用を医療分野に見いだすも、そこには薬事の壁が強固に立ちはだかっていた。アーティストへの階段、そして薬事の壁に挑む同社のこれから。

アーティストへの階段と薬事の壁と

—お話に挙がった「ONE PIECE」や「ゴジラ」のほかにも「NARUTO—ナルト—」「初音ミク」など、メジャーなお仕事が多いですよね。

千賀 そうですね。現在、出版社、テレビ局、アニメ制作会社、ほとんどが権利元から直接受注していて、仕事はだいたい1年後まで埋まっています。

海外展開も狙っていて、今後ドバイやアジア圏でアニメの大きな立像を作品として出そうと動いています。バンダイさんのゴジラも450万円という価格で限定10体でしたが、それ以上の注文があり抽選となりました。こういったものが海外でもそれなりの評価を受けて、芸術作品として売れるようになっていけばと思っています。最終的な目標は「アーティスト」です。

—それはどういうことでしょう。

千賀 平面のものを立体化するということは、そこに創作性が絶対にありますよね。以前、その創作性を認めてもらえないことがあって、自分自身というよりは、作っている社員や仲間に対して悔しい思いもしました。それからずっと、どうすれば表に名前が出るかと考えて取り組んできたんです。

現在は有名作品の立体化に当たり、原型で「デザインココ」の名が記されることが多くなっている

—いまでは御社の名前を目にすることも多くなりましたが。

千賀 確かに、バンダイさんをはじめ大きなメーカーさんが原型としてうちの名前を出してくれていて、非常にうれしいことです。それでもまだ、仕事が大きくなればなるほど難しい部分もあるのは確か。実は国内の「×××××(伏せ字は筆者)」は全てうちが作っているんです。評価はしてもらっているんですが、名前が出ないことはまだありますよ。

そこを何とかクリアしようと、海外に造形作家という形で出て行けるようにいま、基盤を固めているところです。最後の階段を上っているところですが、このアーティストという階段は本当に難しいですね。

—なるほど。一方では、医療分野にも進出されていますね。

千賀 さっき言ったように、データとして見れば、メディカルもエデュケーションも工業製品もアニメも全部同じなんです。3Dのデジタルデータをどう拡張させて使っていくかというのが一番重要なキーポイントで、特に個体差があるものと非常に親和性が高いことが分かっています。大ロットであれば金型を作ればいいんですが、小ロット他品種のデータというのは3DCGや3Dプリンターとの相性がいい。となると当然、一人一人を相手にする医療という分野が浮かんできますよね。

PC上で作られる3Dのデジタルデータ

それで漠然と「医療はハマる」と思って展示会に出たんです。医療の専門知識は持ち合わせていないので、まずはうちの技術シーズをアピールして、あとは医療系のニーズを集めてこようと。それがきっかけで、人工関節治具や臓器の縫合訓練用模型の開発につながりました。

—簡単に説明していただけますか。

千賀 例えば人工関節では、膝に入れるお皿を金物で作り、大腿骨に対して真っすぐに芯を入れて固定するということが重要ですが、医師の職人的な技術や経験による部分が大きい。一方で、CTスキャンのデータを見ると骨には個体差があるので、それを利用して手術を受ける個々人にフィットする器具を付けて施術することで、医師の技能に左右されずに手術の精度を上げることができます。

3Dプリンターを使って作製した人工関節の取り付け器具(左)、縫合用訓練模型(右)

ただ難しいのは薬事の問題で、製造や販売などさまざまな免許が必要となり、何より保険点数の壁がある。厚生労働省で保険点数が認可されれば医療現場でも使ってもらえるようになるんですが、そこまで行くのは大変です。さんざん苦労して、中小企業が入っていくハードルがいかに高いかを実感しました。

だからうちは中小企業でやる以上、薬事の問題について正面から向き合うことはやめました。例えば、物を作って納めるのではなく、データを預かって最適な設計をしてデータを渡すことは薬事にかかわらずできるので、そういった形で会社の技術を役立てればと思っています。

—縫合訓練用模型についてはいかがでしょうか。

千賀 若手の医師の方は縫合技能を高めるために日々練習しますが、豚の心臓を使った「ウェットラボ」は場所の確保や処理の問題があります。そこでシリコンなどでできた模型「ドライラボ」が使われていますが、海外メーカーが製造する高価な輸入品に頼っている状況です。そこで3Dプリンターを使い、安価で提供できるものを医療機器メーカーと共同で製品化しました。これも薬事が絡まないんですよね。

そういうふうに中小企業の身の丈に合ったものをやろうと。ものづくりを描いたドラマで人工心臓弁を取り扱っていましたが、薬事の壁があるから実際には難しいんです。夢を壊すわけじゃないですが、その辺の実需を見極めるというか、いわゆる出口戦略がないと商売は無理ですよね。そう言いながらもアーティストを目指しているというんだから、訳が分からないですよね(笑)

アーティストへの階段を上る一方で、実需を見極めながら医療分野への参入を目指す千賀社長

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

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デザインココ

2000年9月設立。デザイン、3Dプリンター設計・製作、産業用メカ設計・製作、造形物・模型製作、映像・音声制作を手掛ける。六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリー「尾田栄一郎監修 ONE PIECE展」造型メカ製作、仙台・神戸・福岡の「アンパンマンこどもミュージアム」企画・施工・管理、東京タワー内「ワンピースミュージアム」造型製作など展示設計の実績多数。「聖闘士星矢」「ゴジラ」「エヴェンゲリオン」「進撃の巨人」「初音ミク」などのヒューマンサイズフィギュアを手掛ける。3Dプリンター中型機「L-DEVO」シリーズ、大型機「COCO MIYAGI 76」を開発・販売。

千賀淳哉

デザインココ代表取締役社長・統括ディレクター。南三陸志津川町出身。2016年からみやぎデジタルエンジニアリングセンター「FDM用途開発研究会」座長を務める。

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