クリエイターインタビュー前編|熊谷海斗(ファブリケーター)
デジタルファブリケーション*で化石燃料を使わなくても機能するエンジンが各地で作られるようになったら、エネルギー革命が起きてしまうかもしれませんね
スタジオ開墾の一角を拠点に造形物の受注制作やものづくりに関する相談対応・アシストに取り組む熊谷さん。手作業とデジタルファブリケーションを併せて制作した作品やプロダクトは、眺めているだけでもワクワクしてきます。今回は熊谷さんの普段のお仕事や制作についてお伺いしました。 * デジタルファブリケーション…造形したいアイディアなどをデジタルのデータに起こし、3Dプリンターやレーザーカッターをはじめとする工作機械でデータを読み込んで素材を加工・造形すること。
ー 普段のお仕事や制作について教えてください。
造形物制作の受注が多いです。普段はスタジオ開墾で作業を完結させることがほとんどですが、イレギュラーな工程が発生する場合は、大きな素材を加工する機材などが揃っている宮城県本吉郡南三陸町の南三陸YES工房や若林区・荒井のDIY STUDIOに足を運びます。
<参加型オブジェ制作展示「木製幾何学パズル」>
2019年に秋田大学主催の公募型展示“SPACE LABO“に出展した作品“参加型オブジェクト制作展示<木製幾何学パズル>”です。“SPACE LABO“では来場者にパーツをはめていただきながらオブジェクトの変化を楽しんでもらい、2020年開催のせんだいアンデパンダン展では、その作品の一部分を展示しました。
<雑がみツリー/ツリー(什器)>
こちらはせんだい・アート・ノードプロジェクト(せんだいメディアテーク)による“ワケあり雑がみ部”で、雑がみオーナメントで飾ったクリスマスツリーです。このクリスマスツリーの木にあたる部分(什器)を制作しました。
ー とても大きなツリーですが、どのくらいのスピード感で制作していたのですか。
まずクライアントに造形物のビジュアルに関する提案をしてイメージのすり合わせを行ってから、実施設計や素材の加工・組み立てに入ります。実施設計+実際の作業期間はだいたい1週間弱くらいですね。
また、造形物の受注だけではなくShop BotをはじめとしたCNCルーター*に関する相談も受けることがあります。CNCルーターはドリルのような刃物(エンドミル)を使いパソコンのソフト上で作ったデータをもとに、切削(彫刻・切り出し)などの加工ができるマシンを指します。機材販売元へ相談をするほどでもないレベルのちょっとした困りごとを手助けすることが多いです。
* CNCルーター・・・CNCはComputer Numerical Controlの略で、“CNCルーター”はコンピューター上で作成したデータをもとに、デジタル制御で作動する工作機械のことを指す。木工加工に特化した工作機械“ShopBot”もCNCルーターの中の一種
(写真:デスクに据え置きできるほど小さなこちらのCNCルーターは小さいパーツを切り出す時など、稀に使用しているそう)
ー ご自身の制作だけではなく、他の方の制作サポートもされているのですね。 さて、普段こちら“スタジオ開墾”の作業場にいらっしゃることが多いとお伺いしておりましたが、いつ頃から入居されているのですか。
昨年の8月から作業場にしています。昨年作業できる場所を探していたところ、ちょうどタイミングよくスペースをシェアする仲間を探していた知人がおり、誘っていただいたのが始まりです。
専用ブースのほかに、共用の作業スペースにも機材や道具があるので、そこでも作業を行います。特段、珍しい機材などは無いのですが、一般的なレンタルスペースやレンタル工房に比べると作業スペースが広い事と、自前の道具に関してはほとんど自由に使わせていただけるので、自分である程度道具を持っている人にとっては利用しやすい環境かもしれません。
ー 先ほど運びこんだ、振り子のようなパーツがついた機械はどういった機能を持っているのですか。
基本的に素材を直線的に裁断する単能機です。大きな振り子は、曲面を削り出す機能を持ち合わせた“治具”※のひとつですね。
※治具(じぐ)・・・素材に特殊な加工を施す際に、作業効率を上げるための道具。
ー ものづくりの為の道具のアップデートもご自身でされるんですね。
はい。このこまごまとしたパーツも治具です。中途半端な角度の裁断や、かなり細かい単位で素材の厚みを調整したいときなどに3Dプリンターで出力したり、手持ちのパーツを活用したりなどして必要な工程に合わせ、治具を作ります。“かんな”で木材を削る作業は好きですが、熟練の職人のような仕上がりには敵いません。そういう手作業の時にも治具を使って、高い精度を出せるよう工夫をします。
ー 必要な治具をご自身で作ってすぐに活用されるとは、やはり器用なのですね。羨ましく思う方は多いと思います。
いえ、技術に関しては、ベテランの職人の方に比べたらまだまだです。だからこそ、手作業に加えてオートメーションやデジタルファブリケーションという技術・技法を活用し自分の不足している部分を補うよう使用しています。安全性を高めることができますし、不器用な方にこそ向いている技法だと思います。
東北工業大学でプロダクトデザインを専攻していたものの、在学中の課題制作ではスタイロフォームやプラ板などを使った簡単なモックアップを制作することはあったのですが、初めてCNCに触れたのは大学の職員の方の管轄である工房に、使用されていないCNCフライス盤があったことがきっかけです。これがあれば本格的な制作ができる、と思って動かし始めてみたのが契機になりました。おかげで、2017年の卒業制作では“スターリングエンジンの機構と動力を活かしたデザイン”を真鍮やアルミを使用して制作することができました。
ー かなり本格的で驚きました。“図面を提案して終わり”という卒業制作は多く見られるので。
図面を作っただけではもったいないですし、機構だけではなく見た目に関しては実物を見ないと分からないという想いから出力した、という感じです。本当であれば機構モデルで終わることなく実際に動くところまで行きたかったです。スターリングエンジンは気体の温度差で動くので、化石燃料を使いません。デジタルファブリケーションでこういう化石燃料を使わなくても機能するエンジンが各地で作られるようになったら、エネルギー革命が起きてしまうかもしれませんね。
熊谷海斗(くまがい・かいと)
1995年秋田県生まれ。ファブリケーター。
2018年東北工業大学ライフデザイン学部クリエイティブデザイン学科プロダクトデザインコース卒業後、CNCルーターオペレーター職の経験を経てフリーランスに。手作業とデジタルファブリケーションの技術を駆使し、木の素材を活かした造形・制作を中心に制作を続けている。