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モビーディック(後編) 陸に上がるために見いだした端材の活路

オーダー品の受注が大多数を占めるウエットスーツ製造において免れないのが、端材の大量発生。もともと高価でさらに廃棄にもコストがかかる端材をどうにかして有効活用できないかと、ある1人の社員が始めた雑貨の生産は、震災で仕事を失った被災者の支援にもつながり、期せずして注目を集めた。それは「海に魂を引かれた者たち」が集うモビーディックにおいても、「陸に上がる」ための重要なツールになりつつある。

陸に上がるために見いだした端材の活路

—ウエットスーツの生地を使った雑貨を新たに展開されましたが、そのきっかけは。

木村 今まで話した通り、サイズが違う、選ばれる材料も違うということで、生地の端材がたくさん出たんです。その端材は産業廃棄物として、お金を出して捨てないといけないんですね。ウエットスーツの材料は非常に高価なので、それを何とかして有効活用できないか、少しでも換金できないかと、当時の製造部長が考えて、たった1人でスタートしました。

保田 あまり大きなものは作れないので小物をやろうということになり、「Chos(チョス)」というブランドで最初にペットボトルホルダーを作りました。端材ですので継ぎはぎになりますし、同じものは作れない。思った通りの量も確保できるわけでもないので、何か確信を持って始めたわけではなかったんです。余っているもので作って、まずは地域の人に「これ、どうですか…?」と反応をうかがって、おっかなびっくりやっていたような感じでした。

販路もありませんでした。ペットボトルホルダーのほかにスマホケースや小銭入れも作りましたが、どれも海で使わなくてもいい日用品ですよね。それなのに、われわれは社長を筆頭に「海に魂を引かれた者たち」の集まりなので、どうしても発想が海の方に寄っていて、既存の販路にしか持って行くところがなくて(笑) それではいけない、やっぱり誰かが陸(おか)に上がらなければいけないと。

—陸に上がらなければいけない(笑) 名言ですね。

保田 マリンはマリンで大きな軸なんですけど、陸にももう1本軸が欲しいと。生物進化の過程と同じですよね。

木村 マリンウエアは季節性があるので、われわれの商品を使っていただける時期というのが限られるんです。先にお話ししたように、お客さまにお店でわれわれの商品を直接指名していただかないと注文いただけないんですが、海に行かない時期はお客さんも買いに行かないので、注文が来ない。閑散期の極端な時には1日の注文が1着という日もあるほどで、注文がない時期とある時期の差がひどいんですよ。そこを少しでも埋める活動ができれば会社も助かりますし、何より重要なのは雇用の維持。ものを作るところに関わっている従業員だけで45人ほどいるんですが、仕事の量によって今日は帰っていいよというわけにはいかないですよね。われわれ管理者、経営者も含めて、そこを埋めたいなというのがいつも課題にありました。

積み重ねられたウエットスーツの端材。その活用を模索し新たな商品が生まれた

保田 皆さん、繁忙期は夏だと思われるんですけど、むしろ秋口から冬なんです。夏って、暑くて着ないんですよ。

—言われてみれば、確かに。

保田 夏は着なくてもある程度大丈夫ですが、冬になったら着ないと凍えてしまいます。でも冬の方が波は良かったり水が澄んでいたりするので、需要はあるんです。ですので、7月8月は閑散期で、9月から跳ね上がっていきます。

木村 昔のニシンを捕っている漁師さんと同じようなサイクルかもしれません(笑) ただ、われわれは陸にいる時期に何もしていなかったので、何かしようよと。

保田 いろいろ調べてみると、同じようなことをやっているところが海外にもありまして、例えば使い古したトラックのほろをかばんにしたり、シートベルトの素材でバッグを作ったりしているところもあって、リサイクルと言わずに「アップサイクル」や「クリエイティブリユース」と言うらしいと。そういう言葉も即採り入れて、知識の自転車操業的にやっているのが実情です。今では「環境に配慮しているんですね」とか「高い理想を持っているんですね」とか言ってもらえることもあるんですが、もともとはごみを減らして、ごみ代を削減したかったということなんです。

木村 当時の製造部長は現在、道路向かいにある有限会社ファン・クリエーションという子会社の社長になって、その際に小物の仕事は全て移管しました。現在は「ReMake」というブランド名で、商品企画も生産も行っています。

「ReMake」ブランドで展開するスマートフォンケース

—ファン・クリエーションは小物専門として立ち上げたということでしょうか。

木村 いえ、ファン・クリエーションはウエットスーツの協力工場として築館に工場があったんですが、その後、子会社として石巻市八幡町に引っ越しをして、そこで震災に遭いました。

—そうでしたか。震災の影響についてもお聞かせいただけますか。

保田 震災ではファン・クリエーションともう1社の協力工場が被害を受けました。モビーディックの本社工場は幸い津波の被害はなかったのですが、津波や原発事故があって、自粛ムードも広がって、マリンスポーツなんてできる状況じゃないだろうと思っていました。しかし大変ありがたいことに、2011年4月1日に本社工場の再開をアナウンスしたところ、全国から前年を上回る受注を頂いたんです。協力工場が被害を受けているので生産が追い付かず、その年は本社工場にその2社の従業員もすし詰め状態になって、多少効率が落ちても期待に応えようと生産を続けました。翌年、国のグループ補助金を活用させていただいて、もともと所有していた向かいの土地に協力会社が共同で使う工場・倉庫施設を用意し、操業を始めたという経緯です。

震災直後は「正直な話、絶望していました」と保田さん

ちょうどその頃、石巻の沿岸部に仮設住宅が建ち始め、住宅は確保したものの仕事はないという方がいて、石巻専修大の教授の方から当時の製造部長に相談を頂きました。そこで、アクセサリーの柄をアイロンプリントで付ける作業ならば内職できるということで、手伝っていただくようになりました。手伝っていただいた方たちの多くはご卒業されたんですが、続けていらっしゃる方もいます。

木村 震災があって「ReMake」ができたと勘違いされる方もいるんですが、そうではなく、その前から端材活用としてのアクセサリー開発をしていて、積極的に製造、販売していこうという時に震災があり、被災された方たちに協力をしていただいた、という流れなんです。

—その後の反響はいかがでしょう。

保田 購入された方がスマホで撮って、SNSで拡散してくださって、それを見た人が興味を持って問い合わせを頂くという形で、いろいろなところに広がっているようです。アップサイクルやクリエイティブリユースということでまずは興味を持っていただいて、しかもこの素材自体、われわれにとっては日常的なんですが、陸では珍しかったようです。触り心地や今までにない素材感に興味を持ってもらえて、企業や製品のロゴを入れたノベルティーグッズを作ってほしいという依頼や、アーティストさんのツアーグッズ、最近ですと学校の同窓会や部活動のOB会で配る記念品の依頼も多く、忙しく作っている状況ですね。

さまざまな試作品が並ぶファン・クリエーションの工場。商品展開のアイデアは尽きない

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

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株式会社モビーディック

1975年4月設立。各種マリンスポーツ用ウエットスーツ、ドライスーツの製造販売を手掛ける。主要営業ブランドは「MOBBY’S」(SCUBA DIVING/PWC/YACHT)、「X-MOBBY’S」(職業用DIVING)、「O’NEILL」(SURFING/WIND SURFING/WAKE BOARDING)、「Rearth」(FISHING)。

株式会社ファン・クリエーション

1996年12月設立。スポーツ用衣服の製造(株式会社モビーディック協力工場)およびアクセサリーの製造販売を手掛ける。主要営業ブランドは「ReMake」(ウエットスーツ製作時に発生する端材等を活用したアクセサリー)。

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