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クリエイターインタビュー|次松 大助さん(後編)

2014年に活動を再開したスカバンド「THE MICETEETH」のボーカリストであると同時に、キーボーディストとして他アーティストのサポートや、CM・映像作品への楽曲提供等、幅広くご活躍されている次松大助(つぎまつ たいすけ)さん。仙台が大好きだという次松さんに、ミュージシャンとしての道を選んだ経緯や仙台のどんなところが好きかお話を伺いました。

 

─仕事をしていて、大変なこと、つらいと思うことはありますか。

バンドとかソロでつらいと思うことは特にないんですけども、今、キーボーディストとしてほかの人のサポートとかもしていて、仙台だったらKUDANZ(*)っていうプロジェクトに鍵盤で参加しています。そこで、何組かから同時に声がかかったりして、必要とされる時期がかぶったりするんですね。音楽は、やっぱり夏場とかが忙しかったりとか、1月は暇だったりとか、そういうのがあるんですけど、オファーがかぶると、どっちも全力でいきたいけど、時間配分しないとだめだな…って悩んだりします。ミュージシャン、特にサポートの仕事をしている人は、その時間配分が難しいということをよく言ってますね。

 *宮城県仙台市在住のシンガー・ソングライター、ササキゲンによるプロジェクト。フォークミュージックをベースに弾き語りやバンド編成など多様な形態で活動中。

─楽しいなと思うところはどんなところですか。

映画音楽とか、CMとか、映像関係の仕事はおもしろいですね。例えばデザインや写真は、何か伝えたいときに時間軸が使えないじゃないですか。きちんと1枚の絵で伝えなくちゃいけないっていうか。だから、デザイン側の人からは、「音楽はいいよね、時間軸使えて」って言われて、「ああ、なるほど」と思ったんです。それで、映画の音楽をやってみたら、時間軸も絵も使えるし、何なら言葉もあるし、そこに音楽で物語を誘導する役割があって。映像って関わる全員でたくさんのことを伝えることができるすごいジャンルだな、と感じました。

─その映画はなんという作品だったのでしょうか。

「桜谷小学校、最後の174日」というタイトルで、徳島の過疎化で廃校する小学校に174日間密着をして撮ったドキュメンタリー映画でした。

─映画の楽曲は全て、次松さんがご担当されたのでしょうか。

そうです。映像も音楽も制作時間が足りなくて、卒業式のシーンまで絶対入れたいけど、その2日後に上映会するっていう日程が決まっていたので、ギリギリに映像をいただいてから、そこに合う最後の曲をつけたりとかもしました。上映会に行って、子どもたちに会えたとき、僕は曲を制作しながら映像を見ていて子どもたちのことを知っていたので、まるでアイドルに会えたみたいな感覚でした(笑)。

─映像を見ていて、自然にメロディーがおりてくるものなのですか。

もうここまで時間がないと、もう無理くりひねり出して(笑)。ですけど、作曲学科に行っててよかったと思うのは、締め切りがある創作を毎週ずっと課題としてさせられていて、締め切りに間に合わせる練習ができていたんですね。それってちょっと芸術からしたら不本意なことかもしれないですけど、その経験があったのはやっぱりよかったですね。

─クライアントワークではなく、普段の作曲ではピアノを触りながらメロディーを紡いでいく感じなのか、それとも例えばお散歩してるときとかに、ふっと思いついたりする感じなのでしょうか。

どれでもありますね。基本的には何かつくろうと思ってつくるタイプなんですけど。ピアノでつくりすぎたなっていうときは違う譜面からつくり出したりとか、歩いてて何か思い浮かぶのもたまにしますね。あとは、歌詞を書くときの一歩目はお酒飲むことが多いです。お酒の力を借りるっていうね。

─お酒を飲んだほうがうまくいくものですか。

飲んだほうが恥ずかしさが和らぐというか。翌朝起きたら、うわって思うようなことでも(笑)。とにかく何か出すことが大事なので。

─曲をつくるのにはどのくらいかかるものなのでしょうか。

曲によりますね。時間がかかる曲はあらかじめじっくり時間をかける感じですけど。ぱっとつくろうと思って、ぱっとつくったやつをアレンジまで完成させるっていう、急ぎでする必要があればそういうこともできますね。

CM等の映像に対して曲をつけるときと、映画の映像に曲をつけるときで違いはありますか。

映像のときは大体1曲なのに対して、映画は何曲か要るじゃないですか。その中で、あまり振れ幅が大きいと取ってつけたようになってしまうので、全然違うシーンでも何となく流れがあるようにしたいなと思ってます。サウンドトラックのCDを聴いたら、同じテーマが別のアレンジで鳴っていたりする…。そういう感じを意識してます。

─これまでで印象に残っている仕事はありますか。

大きい仕事でいえば、北海道新幹線が開通したときに、サンドウィッチマンが出ているCMの音楽を作曲させてもらいました。だから、サンドウィッチマンとちょっと共演したってことですよね(笑)。あと最近、ホームページ上で、画面の一番上に40秒くらいの流れる広告みたいなやつを制作したんですけど、初めて効果音を含めて音楽づくりをしました。

北海道新幹線開通CM

─この効果音は、サンプリングですか。

こういうのが昔から好きで、レンタルCD屋で借りてきて、著作権フリーのやつをパソコンに入れておいたりとかしてたんですよ。この仕事でおもしろかったのは、効果音をつけると、例えばウインクに効果音を「ブチュッ!」ってつけると、視線がそっちにちゃんと行くんです。効果音には視線を誘導できる効果があるんだなって勉強になりました。

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─仙台については、バンドのツアーで来て知ったのですか。

そうですね、ツアーで知りました。実は僕、元々仙台が好きだったんですよ。お店でも、都会、例えば東京とかだとお店は見えるけど、そこに働いてる人って見えにくいという感じがしてて。でも、仙台だと、お店よりも人が見えやすい気がして、その具合が多分自分に合ってたんじゃないのかなと思います。今住んでいて仙台が好きだなと感じるところは、飲食店がすごく元気なところですかね。ほかの県より楽しそうに仕事してる感じというか。まだ8年ではありますけど、8年もこっちにいると仲のいい人もできますし、変な言い方ですけど、“続きが気になる人”がやっぱり自分の中では一番仙台に多くて。だから、例えば離婚したら大阪に戻るかとかいったら、そういうことはないと思うんですね。きっと仙台にいますね。

─仙台で子育てをしていて、良さややりづらさはありますか。

僕が引っ越せばいいだけの話なんですけど、家がバスしかないところにあって。お酒が好きなので、車が必要なところに飲みに行くともどかしいですね。バスがあるうちに帰るか、タクシーで帰るか。でも、ちょっと田舎のほうなんで、ピアノが家で夜も弾けたりするのはいいですね。

─仕事のしづらさは感じますか。

東京のほうが仕事は多いし、分母は多いかなとは思うんですよ。東京にいたら、例えば何かのパーティーでいろんなジャンルの人が結びついたりして、東京の横パスの仕事のつなげ方みたいなのがあるじゃないですか。ちょっと、こっちからしたらずるいなとも思うんですけど、まあでもそれって東京こそ顔が見えるつながりを大事にしてたりとかというのも感じるところがあって。仙台でも横のつながりはあるんですけど、大きい仕事になると東京頼みというか…。仙台でももう少しクリエイター同士が地元の人を信じて、地元で横パスを出し合えたらなあと思います。もちろん、なあなあになっちゃったらよくないとは思うので、クリエイターの人自身も、そこに劣らないものを出し続ける必要はあると思うんですけど。

─仙台に期待すること、行政にもっとこうあってほしいという要望はありしますか。

行政が広告代理店にお仕事を振ると、広告代理店から東京のクリエイターに受注が行きやすいと思うので、何かそこがうまく、行政こそ地元のクリエイターを使って、クリエイターもちゃんと一生懸命それに応えてっていう流れができたら一番いいと思うし、「東京がうらやましい」みたいな人ももう少しいなくなるんじゃないかと思います。あと、仙台に来て、「この人、すごくセンスがいいな」って感じる人がいるんですけど、そういう人が照れて自分のセンスのよさをちょっと隠したりしているから、そういう人が照れなくていいようになればいいなと思いますね。

─仙台で今後チャレンジしたいことはありますか。

何だかんだ言いつつ、僕自身、東京からの仕事で成り立ってるところもあるので、それをシフトしていけたら一番嬉しいですね。仙台からの仕事で成り立つように頑張っていきたいと思ってます。

─これからクリエイティブ分野、音楽関係の分野で働きたい人や、目指している人への何かメッセージをいただけますか。

音楽に関していえば、最初は好きなものの模倣でいいと思うんです。でも、偉そうなことを言うと、その状態のままの人が結構見受けられるなと思って。そうすると、大型量販店の真似をしてる小売店みたいなことになって、じゃあその大型量販店が近くにあればそこに行く…っていう状態になってしまう。何ていうか、どうやってもその人の個性が出てしまうぐらいに、1種類の好きなものじゃなくて、たくさんの自分の好きなものを見つけて、そういうインプットがたくさんあると、“自分の中の好きなもの”っていうのは、ほかの人とかぶらないことになると思うんです。だから、好きなものをたくさん見つけたらいいんじゃないかな思いますね。

あと今だと、これが好きって検索したりすると、インターネット上で「あなたにおすすめなのは、これ」って、出てきたりするじゃないですか。おすすめ機能もいいんですけど、そうすると似た感じのものは深められてはいくと思うんです。でも、映画とか人でも、好きになるのにちょっと時間がかかるものとか、何か、気づいたら、「あ、この人すごくいいな」って、3年ぐらい付き合った中で思ったりすることもあるじゃないですか。そういうのが音楽にも多分あって、好きになるのに時間がかかる音楽があると思うんです。でも、インターネットでどんどんおすすめしてもらったら、そういう時間がかかるものってはじいちゃうと思うんですね。そういうのはちょっと残念だから、いろんなものを好きになったらいいんじゃないかなと思いますね。

取材日:平成30年7月25日
聞き手:仙台市地域産業支援課、岡沼 美樹恵
構成:岡沼 美樹恵

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次松 大助

2014年に活動を再開したTHE MICETEETH(ザ・マイスティース)のボーカル。
フジロック、サマーソニック等、多くのフェスティバルへも出演し、ソロとしては主にピアノ弾き語りでの活動の他、管弦打楽器を巧みにアレンジした1stソロアルバム「Animation for oink,oink!」や、ミニアルバム「Ballade for Night Zoo」をリリース。

また、ピアニスト、キーボーディストとして他アーティストのライブやレコーディングサポート、アレンジやプロデュースなどを行うかたわら、CMや映像作品への楽曲提供など、多数の制作をおこなっている。

2018516日全11曲入りのニューアルバム「喜劇“鴉片”(シーヂィヤーピィエン)」をリリース。

2010年より宮城県に在住。

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