ライターバトン -34- 「今を生き抜く希望として。」
仙台を中心に活躍するライターが、リレー形式でおくります。前任ライターのお題をしりとりで受け、テーマを決める…という以外はなんでもアリの、ゆるゆるコラムです。
今を生き抜く希望として。
私は、言葉で生きている。食べるための業という意味でもそうだし、自分の第一義としてもそうだ。
追い求めたいものが、なぜ言葉や文章であるかは判らない。ただ王羲之に敵う字を願うように、少しでも正確で抑揚のある演奏を志すように、理屈のない向上心で進んでいるだけだ。「国語は答えがひとつじゃないから好き」と言語を無秩序なアイデア集かのように解釈する向きを毛嫌いし、文章は論理的思考そのものと信じて疑わない自分の根底が、まるで論理のない感情なのはおかしな話だ。
浅はかな言葉や、軽薄な情報を無批判に飲み込む姿勢とは距離を置き、深く多面的な思考のきっかけを作る人になりたい思いはある。仙台の高校に通うまで、根も葉もない噂を簡単に信じ態度を変える地元の同級生を見て、その振る舞いを自分に向けられているにもかかわらず、どこか引いた、冷めた視点で想像力のなさに嘆息していた。原稿の指導で口酸っぱく「一次情報にあたれ」と教えていたのは、伝聞で判断される理不尽さを知っているからかもしれない。
一次情報にあたることは取材の鉄則であり、事実ありきの情報発信を支える根本的な姿勢だ。そして事実(情報)と感情を分けることも文章を書くうえでは基本なのだが、ただでさえ膨大な文字情報が氾濫する社会でCOVID-19の不安が取り巻く今日、感情をのせた強い言葉が非常に重要な役割を果たすのではないかと考えはじめている。
2016年に注目された匿名記事「保育園落ちた日本死ね!!!」はデモや署名活動のきっかけになった。東日本大震災発生直後に津波到達の危機感を伝えたのは、到達予測を読み上げる東京の中継ではなく、映像で沿岸に迫る津波を発見し「今来てますよ津波が!」と語気を強めた岩手県のアナウンサーの言葉だった。そして今、医療従事者やドラッグストア店員の悲痛な声が、SNS経由で全国ニュースで取り上げられている。
もちろん、虚偽の情報を確かめもせずに流したり、不安ばかり強調したりするのはいただけない。暴言だってあってはいけない。取引先や周囲への配慮、受け手を傷つけないための努力、誤解されず角が立たない丁寧な言葉遣い……一人前の大人なら、これくらいはできて当たり前。
でも、どこかの誰かの機嫌のために先回りで謝っておくような発信は、もう十分だ。多くの人は仕事で、あるいは普段の生活で、取引先や目上の人相手にもどかしい言い回しでお願いや状況伺いをし、心を砕いて選びに選んだメッセージの伝わらなさに頭を抱えたことがあるのではないだろうか。
それは結局のところ、伝わっていないのだ。字面は受け取られたかもしれないが、肝心な部分、一番の熱意は伝わっていない。悩みに悩んで、かえって伝わらない可能性を上げてしまう……「言葉のクッション」にはそんな皮肉な事態に陥る面があることは否定できない。
だから、大事なことは強い意志で訴えよう。拙くても、混乱していても、芯のある言葉は強い。この記事を書き始めたのは3月末、皆さんの目に触れるまで2週間ほど時間がある。刻一刻と感染状況が変わり、公開されるときにはどれだけの不安が渦巻いているか、正直恐ろしい。
でも。いや、だからこそ。分厚いオブラートを脱ぎ捨てて、はっきり気持ちを伝えてみませんか。
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バトンを渡してくれた根本君、ライターの発信の場を提供してくださっている市の皆さん、ありがとうございます。サイトリニューアルのため連載は一旦お休みになるそうです。締めくくり(仮)担当は予想外でしたが、パワーアップして再び皆さんのもとに届けられるまで、バトンをつなぎたい気持ちを大切にしまっておこうと思います。
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山口史津(やまぐち・しづ)
ライター・編集者。東北大学大学院情報科学研究科 木下研究室インタビュー「研究を聴く」執筆。映画「弥生、三月」ロケ地インタビュー担当。医師、経営者、クリエイターのロングインタビュー、企業採用サイト社員インタビュー、メディアサイト編集などを多数経験。難しいことを深く、深いことをまじめに伝えたい。