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クリエイターインタビュー後編|Nami Sato(サウンドアーティスト)

アーティストとして、女性として
搾取されない働き方を考えていく

「他のエリアにはない、東北に既にあるものと真摯に向き合いたい」と話す荒浜出身のサウンドアーティスト・Nami Satoさん。今回は東北を拠点に活動しているアーティストとして音楽制作に関わる中で大切にしていることや誰でも気持ちよくクリエイションに取り組める環境への期待、クリエイティブ職を志す若手世代へのメッセージをお聞きしました。

― 商いやプロモーションが苦手なアーティストに安い謝金で発注するクライアントも多いと聞きますが、芸術活動とマネタイズの話題に関してはどのようにお考えですか。

良くない傾向ですよね。私自身もお金周りや契約関係で今後困ることのないよう、日々勉強をしています。海外の美術大学では助成金や補助金の申請方法、収支予算表、事業計画の立て方を授業の一環として教えているそうなので、日本でもそのあたりが充実すればいいのにと感じています。美術大学でいえば、デッサンくらい大事だと思います。

「友達だから無料で制作依頼を受けてしまった」というケースもよく耳にしますし、普段から自分の活動をマネタイズしていく方法を学ぶ機会がたくさんあってほしいですよね。プロダクトデザインや建築と違って、音楽やイラストのデータ納品など成果物が実存しないものは労働として軽視されやすい傾向がありますし。

― アーティスト向けの助成金講座などが充実すると良いのですが「そんな時間があったら制作をしたい」と逆に作業場に篭ってしまう方が心配です。

たしかにそういうスタンスの方も多く、社会との接点が少なくなるもったいなさがありますね。

私がフィールドレコーディングを好んでいるのは、社会とつながるのりしろがあるというのが理由のひとつです。ただ音楽を作るだけであれば1人で部屋に篭ってパソコンやシンセサイザーに向き合えばいい。もちろん、1人で集中して部屋で制作することは悪くないし、私もそれはそれで好きです。でも、私はやっぱり人と関わるのが好きなのでせんだい3.11メモリアル交流館のスタッフの方といろんなところを周って音を録りに行ったのなんかはとても楽しかったですし、今後も続けていきたいです。

― 確かに、複数人で色々な場所を巡ってフィールドレコーディングをやるのはコミュニケーションにも繋がるし、何より楽しそうですね。

本当に楽しいですよ!いつかフィールドレコーディングの体験ワークショップもやってみたいです。楽器メーカーの協力を得てしっかりした機材でフィールドレコーディングを体験してもらうのもいいし、参加者の持っているiPhoneなどを使って気軽に参加してもらうのもありですね。

カメラも今や当たり前のようにスマホについていて、シャッターを押すハードルが下がったように思うし、スマホで音を録ったり曲をつくれたりするような技術があるのは素晴らしいことですよね。時代が進むにつれてアイテムの機能性や触れやすさはアップデートされていくし、そこにたくさん人が関わるのはいいことだと思います。

― フィールドレコーディングを多くの人に体験してもらうのは素晴らしい構想ですね、実現が楽しみです。ご自身の制作や思考をアップデートする上で大切にしているバイブルのようなものはあったりしますか。

最近だと、民話採訪者・小野和子さんの『あいたくてききたくて旅にでる』という本を自分の中で大切にしています。小野さんは宮城県を中心とした東北のさまざまな場所に自ら足を運び、家々を訪ねて、そこに住む人たちから民話を聞いて集める「採訪(さいほう)」という活動をされている方なのですが、この本はすごく大好きで、よく読み返しています。

海外メディアからのインタビューで「日本人として音楽づくりで大切にしていることは何か」と訊かれたことがありますが、あまりパッと答えが出てこなかった経験があります。普段、日本人というより「東北人として大切にしたいこと」という括りで考えることは多いのですが。東北にはこの本で紹介されているような民話や遠野物語、宮沢賢治の作品など、自然と人間を取り巻く素敵なファンタジーやSFを育む不思議な力があります。自分がフィールドレコーディングをやっていることも、この地域にあるものへ真摯に向き合うことに繋がればいいなと思っています。

― NamiさんのSNSやインタビュー記事を拝見していると「日本の女性が地方で音楽活動を継続するハードルが高い」「女性や子どもが学んだり自己実現したりできる環境やチャンスがあってほしい」など、女性や若者の自己実現に関するキーワードを多くお見受けしますが、音楽業界に関わる男女比の差はそれほど開いているものなのですか。

音楽の商業規模が世界一大きなアメリカでさえ、音楽業界に携わる人の男女比が約8:2、その中でも音楽制作における主導権を持っている女性は全体の3%にも届かないというデータがあります。現在はスマホのアプリなどで曲作りに気軽に触れられるようになったこともあり、一昔前よりも状況は改善されていっていると思いたいですが、女性へのセクシャルハラスメントや性的搾取など外側からは見えにくい問題はまだまだ大きな課題です。

小中学校の音楽室に飾られている肖像画を思い出してみて欲しいんですが、男性ばかりですよね。女性でも活躍していた音楽家はいたけれど、昔は明るみに出られなかった方が本当に多かったみたいで。音楽制作に携わる人の数が圧倒的に男性の方が多い現状を考えると、まだまだフェアな世界とは言えないと思います。政治の目線ですが、昔の女性活動家たちが権利を主張し続けてやっと参政権というバトンが女性にも回ってきた経緯を考えると、それって他人事じゃないなぁと思いますし。

― 確かに、そういったセンシティブな現状は外側から見えにくい問題ですね。

そうなんです、女性だからという理由で理不尽に搾取されてしまう構図は外側から見えにくいのが一番問題です。将来的には教育にも関わりたいので、何とかしなくてはと思っています。音楽業界を志す女性の権利を主張する運動を起こすとかじゃなくても理不尽な場面で「NO」と言うだけで変えていける部分はあると思いますし、私自身もそういったことを言葉にし続けていきたいです。

― こういった問題が世の中でオープンになっていくことで改善される未来を期待したいですね。最後に、クリエイティブ職や音楽制作に携わりたい若手世代へ向けたメッセージをお願いします。

今はYouTubeなど、インターネット上で学べたり発表したりできる場もたくさんありますが、コミュニティにアクセスするのは大事な要素の一つだと考えています。また、活動をしていると誰かが何かしら言ってくると思いますが、無視していいと思います。

自分なりにやっていくうちにそれが正しければそのまま突き進めばいいし、言われたことを思い返して「やっぱりそうかも」と思ったら軌道修正していけばいいだけですから。外野から余計なことを言われたら「ウケる(笑)」って思った方がいい!それしかないです。心身の健康をまず第一にしてくださいね。

取材日:令和3年12月3日

取材・構成:昆野 沙耶(恐山 らむね)
撮影:はま田 あつ美

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Nami Sato(なみ・さとう)

1990年生まれ。サウンドアーティスト。宮城県仙台市荒浜にて育つ。活動拠点を仙台に置き、アナログシンセサイザー、フィールドレコーディング、アンビエント、ストリングスなどのサウンドを取り入れた楽曲を制作している。東日本大震災をきっかけに音楽制作を本格的にはじめる。2013年、震災で失われた故郷の再構築を試みたアルバム “ARAHAMA callings” を配信リリース。2015年3月11日から毎年、母校である震災遺構荒浜小学校での「HOPE FOR project」にて會田茂一、恒岡章(Hi-STANDARD)、HUNGER(GAGLE)らとライブセッションを継続している。2018年 “Red Bull Music Academy 2018 Berlin” に日本代表として選出。2019年、ロンドンを拠点とするレーベルよりEP “OUR MAP HERE” をリリース、BBC Radio等多くの海外メディアに取り上げられる。2021年3月31日、最新フルアルバム “World Sketch Monologue” をリリース。他、国内外の映画や広告映像などへ多くの楽曲を制作、提供している。

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