クリエイターインタビュー後編|佐々瞬(現代美術家)
本当にやりたい仕事、疲弊しない場所
自分の居場所は自分でつくれる
2016年に仙台へUターンした後、追廻地区をはじめとする場所や暮らしにスポットを当てた作品制作や記録活動を続けている現代美術家の佐々瞬さん。今回はUターン後やコロナ禍をきっかけに起きたご自身の変化にも触れて、お話をお聞きしました。
― 都内からUターンしたきっかけをお聞きしたいです。
東日本大震災を通じて感じた違和感が年々大きくなっていったことが、仙台へ戻るきっかけになりました。震災後、大学生の時に生まれた作品制作のベースのようなものに疑問や変化が必要と感じるようになっていって。仕事も、インフラも、自分が学んだと思っていたアートの文脈も、不安定な地面の上にあるということを実感しました。
その上で追廻地区を調べていくうちに、立ち退きを巡る動きの中で自治会でインフラ整備せざるを得なくなった歴史を知りました。大きなものに頼れない状況の中で、自分たちで生活や町に必要なものを作っていった人々。その知恵や記憶は、自分が震災を通じて感じるようになった不確かな世界を生きていく上で、多くのヒントをもたらしてくれるかもしれないと考えました。今思えば、Uターンを考え始めた時期がちょうど追廻地区に関するリサーチや制作をスタートしようと決めた頃かもしれません。
― Uターン後、変化を感じたことはありますか。
現在は土地のリサーチやその結果をもとにした作品作りに強く興味を持って活動するようになりました。変わったことは多いですね。アウトプットから考えるのではなく、まずその場所に通ってみるとか、そういうのを大事にしたいと思うようになりました。まずは目の前の人の話を聞くようにしています。
― 制作していく上で重視する過程が変わっていったのですね。ここ数年のコロナ禍では、制作や環境に大きな変化はありましたか。
2020年に仙台フォーラス7Fの「TURN ANOTHER ROUND(アナラン)」で開催した「売店『男、店を開く準備をしている』」を経て、実際にオンラインショップの準備をしています。アーティスト・イン・レジデンスで出会った作家の包丁や、害獣として駆除された熊の頭骨などを扱っていく予定です。
オンラインショップを実際に運営していこうとしているのは、コロナ禍の影響で展覧会が次々と中止になったり、仕事がなくなったりする状況の中で、小さくてもいいから自分発信で営む経済活動として小商いをやっていく必要性を感じたからです。展示の時は「期間限定のポップアップストアでいいかな」と思っていたのですが、後から展示だけでなく、実際にショップをやろうと思い至りました。
また、レジデンス先や作品制作をきっかけに関わった方などとの出会いも、作品制作や展示が終わると関係が希薄になってしまう。そのことを課題に感じていました。小商いの必要性に加えて、作品制作などで関わった方との今後の関係構築の意味合いも込めて運営していくつもりです。経済活動が社会を作っていくことを踏まえた上で、自分が思うマシな状況を作っていくためのお店にしていくことが目標です。社会がこうなっていけばいいと思えるものを売る店にしていきたいですね。
― オンラインショップのオープン、楽しみです!ちなみに、商品のラインナップに予定されている「熊の頭骨」が気になりましたが…。
人間が害獣と見なした特定の動物が生態系の現状に起因しているのは、これまでの人間の営みによるものも少なくありません。すぐには変わらないかもしれないですが、そこで奪われている命が生活に役立つ方法を考えていかなくてはと感じています。動物の頭骨に関しては、岩手の猟師の方が活用しきれないものを譲り受けて商品化していきたいと考えています。既に似たようなことをされている方もいらっしゃいますが、こういうのはたくさんあってもいいと思っているので。
― ちなみに、実店舗の運営を始める構想はありますか?
まずはオンラインショップやポップアップストアで少しずつ始めていこうかなと。ちなみに、「作品制作だけやる」「ショップ運営だけやる」ではなく、「あれもこれもやる」というスタンスです。
― 「稼ぎ方」に関する話題が続きましたが、普段はどのような働き方をされてきたのでしょうか。作品の販売などがメインですか。
大学の非常勤講師をしていると、学生たちからも「美術家って、どうやって稼いでいるんですか」と聞かれることが多いです。具体的には展示謝礼、大学での非常勤講師、アーティストのコーディネート、舞台などの記録撮影、展示会の設営や空間構成などでやりくりし、最近は助成金も活用しています。自分はいろんな仕事をしながら、人に出会ったり、知らない世界を垣間見たりするのが向いていると思うので、こういうスタイルで仕事をしている感じです。中にはサクッとやり切れるような仕事もあれば、大したお金にはならないけれど取り組みたい仕事もあります。助成金など意図のあるお金を使うことはありますが、自身が持ち出してでもやりたいことも結構あるものです。
― 最後に、現在のクリエイティブシーンに必要となってくることについてお聞きしたいです。
同世代のアーティストと会って話すと、暗い話ばかり出てくるんです。日本のアートシーンをめぐる状況や教育産業、経済状況がどんどん悪い方向に進んでいる現状にみんな気づいているから、問題に感じていることを話すのかもしれません。それだけでなく、近年では、ここ何十年かの日本のアートシーンが重要視することのなかった人権などの倫理的な問題や、アクチュアルな政治参加の必要性を多くのアーティストが実感しています。社会と人、自分に必要なものを自身で新しく作っていくことが本当に必要になってきたということだと思っています。
佐々 瞬(ささ・しゅん)
1986年宮城県生まれ。2009年東京造形大学美術学科絵画専攻卒業。身体的な実践によって、過去の出来事を現在のなかに捉えなおすことで、個人や共同体の失われた関係性の再構築をはかる。東日本大震災後は、半壊した宮城県沿岸部・新浜の住宅を借り受け、アーティストや建築家らを招聘するプライベートなレジデンスプログラムなども企画する。近年の主な個展に「公園/ローカルの流儀」(Gallery TURNAROUND、2021年)。参加したグループ展に「ナラティブの修復」(せんだいメディアテーク、2021年)などがある。