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クリエイターインタビュー|千坂 まこさん(前編)

昨年大学を卒業し、大学の恩師が代表を務める「合同会社マイチデザインスタジオ」に就職した千坂まこ(ちさか まこ)さん。デザイナー・イラストレーターというクリエイターとしての道を歩み始めた千坂さんに、お仕事の楽しさや将来に向けての抱負についてお話を伺いました。

 

―これまでの経歴とデザイナー・イラストレーターを目指したきっかけを教えてください。

生まれも育ちも宮城県で、物心つく前から絵を描くことが好きだったんですね。高校は宮城野高校の美術科に進学しまして、その美術科には、洋画・日本画・彫刻・クラフトデザイン・ビジュアルデザインの専攻があったんです。私はもともとイラストを描くことが好きだったので「自分の好きなイラストを活かすためには」を考えて、ビジュアルデザインを選びました。大学は、宮城大学のデザイン情報学科という、一応デザインと名のつく学科に進学しました。でも、ここは美大ではないので、がっつり美術やデザインの講義があるわけでもなく、大学の講義で満たされない分は、自分でイラストを描いて本を作ってみたり、コンペに出してみたり、色々と活動していました。大学2年生のときには、仙台のデザイン事務所で、インターンシップとして2週間ほどお世話になりました。

―インターンとしての実践的な経験が、今後デザイナーとしてやっていくきっかけになったのでしょうか。

インターンシップでは、職場の先輩デザイナーさんに教えていただきながら、実際に広告の一部をつくらせていただきました。でも、私の場合は、インターンシップでデザインを経験したからデザイナーになろうということではなかったですね。今まで歩んできたキャリアからして、専門職につくのが流れかと思いますが、まだその時点では将来がはっきりしていませんでした。その時はおぼろげに「デザイナー良いな」と思っていた程度でした。大学3年生のときに、伊藤真市先生の研究室に配属されたことが、私にとってのデザインへの道の本当の始まりでした。先生には、学生時代、感謝してもしきれないくらい、手厚くご指導いただきました。今私は、「合同会社マイチデザインスタジオ」という会社にグラフィックデザイナーとして勤めているのですが、その会社の代表は、大学生の時代からお世話になっている伊藤先生なんです。

―伊藤先生の研究室に入ったのはなぜですか。

研究室に入る前に、自分のこれまで作った作品などをファイルにして、研究室訪問に行ったんです。その時点では別の先生の研究室が本命で、とりあえず伊藤先生のところにも行ってみようかな…という軽い気持ちでちょっと行ってみたんです。その時、伊藤先生には「お前、手を抜いているだろう」って言われたんですよ。でも、別の先生には「あ、いいね」って。自分が成長することを考えると、色々とつっこんで言ってくれる先生の方に行った方がいいのかなと思って、伊藤先生の研究室に行くことを決めました。

―教え子と教員の関係から仕事のパートナーになった伊藤先生との関係性に変化はありましたか。

関係性については深く考えたことがなかったですね。在学中から仕事を一緒にやっていたということもありますし。卒業してからは上司という立場になるとは思うんですけれど、やっぱり、私にとってはずっと「先生」だと思います。でも、学生時代よりは「仕事のパートナー」として、自らの考えを素直にぶつけることができてきていると思います。

―研究室にいらっしゃるときから、先生と合同会社をつくるという話になったのですか。

会社を作るという話は、ちょうど私が卒業する時期に先生から伺いました。先生にスタジオ設立の経緯を伺うと、大きく二つの理由がありまして、まず一つは、デザインの仕事の受け皿がちゃんとあった方がいいということ。伊藤先生に直接仕事の依頼が来る場合ももちろんですが、宮城大学の地域連携センターを経由しての依頼だと手続きが煩雑になって、どうしても制限が出てきてしまうんです。現物納品という形で印刷の管理もこちら側ですれば、デザインのクオリティのコントロールがききます。デザインしたものの最終、定着段階まで見届けたい思いが強く、意に沿ったものにするためにも、仕事の受け皿として会社があったほうがいいというのが一つ目の理由です。二つ目は、事業構想学部的に事業を起こすことが研究対象になるということ。昔の県立大学では副業禁止でしたが、この会社は大学として許可も出ています。

―卒業する間際に先生が合同会社を設立されたということでしたが、それまで千坂さんご自身は進路を決めていなかったのですか。

先生の「マイチデザインスタジオ」に行くと決めたのは卒業式当日だったので、ギリギリのタイミングだったんですよ(笑)。一番の決め手は、在学中から先生と一緒に仕事をやってきたからですね。「先生はなんで事務所を持ってないんだろう」という話を、同期の人と話したりもしていたんです。私自身、就職活動期間は、東京を中心にデザイン事務所とか制作会社、広告代理店とかデザイン系の企業と東京の大学院も並行して受けてはいたんですけど、どれもご縁がありませんでした。なので、卒業式以降も就職活動を続けようかな…なんてことを考えていたんです。就職で東京に出るという気持ちは強かったのですが、大学の卒業研究の発表展覧会が2月にありまして、それが終わった直後に母が倒れてしまったんです。加えて、その年は妹が受験生だということもあったので、「このまま東京に出ずに仙台に残った方がいいかな」ということを考え始めた矢先に、先生からのお誘いをいただいた次第です。

―「マイチデザインスタジオ」として、最初から仕事が潤沢にあったのでしょうか。

立ち上げたばかりですので、最初から潤沢にあったわけではありません。七ヶ宿町(のブランディング)は、在学中からお付き合いがあったということで、その先の展開として、チラシ・卓上のぼり・ポスターなどは会社として請け負いました。七ヶ宿のビジュアルデザインを請け負った経緯は、もともとは宮城大学の地域連携センターにご依頼いただいた案件だったんです。七ヶ宿町の前に、mou mol molleという利府にあるお菓子屋さんのロゴマークを含むブランディングを行ったのですが、それを伊藤先生の研究室でやっていたということで、大学の地域連携センターの方から、「七ヶ宿町のブランディングやロゴマークも伊藤先生の研究室でできないか」と、お話をいただきました。現在も、新しい認定品の載ったリーフレットを作っている最中です。

七ヶ宿ブランドのポスター
ロゴマークをよく見ると…

―七ヶ宿ブランドのロゴは、よく見ると七ヶ宿と書いてあるんですね。

そうなんです。七ヶ宿町は元々宿場町で、日本的な和風の伝統を感じさせるロゴマークがいいということで、家紋を連想させるデザインにしていまして。この家紋の下の模様の部分に、気づいた人だけが分かる「シチカシュク」という文字を入れたんです。あえて言わないことで話題性にも繋がります。「これ知ってる? 実は…」っていうのを狙ってるんです。

―直近ではどんな仕事をされていますか?

定禅寺ストリートジャズフェスティバルのボランティア募集のチラシや、ご支援のお願いのリーフレットをつくりました。今年の年明けにイラストの展示会を仙台でやったときに、ジャズフェスの関係者がいらっしゃって、そこで繋がった仕事です。

定禅寺ストリートジャズフェスティバルのリーフレットとチラシ

―「マイチデザインスタジオ」や大学在学中で、一番印象に残っている仕事、もしくは、やっていて楽しかった仕事はありますか。

基本的には、全部楽しいです。つくっている間は苦しい時間もあるんですけれど、クライアント側とデザインする側と双方納得のいくものができあがったときは嬉しいですね。

具体例を挙げると、この「一般社団法人ふくのね」さんのマークはかなり苦労しました。クライアント側で「鐘にしてほしい」という意見と「樹木にしてほしい」という意見に分かれていて、それを一つのマークにするのが難しくて…。最初は、鐘の下にそのまま木の幹をモチーフにしたものを置いていたのですが、それだとちょっと重い印象になってしまって。軽やかで明るい優しいイメージを出したかったので、色々と試行錯誤を重ねました。その間に、頭の中でカーンと鐘の音が鳴って、いわゆる“降りてきた”という感じでこのマークが完成しました。そういうこともあるので、制作は楽しいなと思っています。

「マイチデザインスタジオ」の成果物の数々
「一般社団法人ふくのね」のマーク

―アイデアが何も出てこないときはどうするのですか。

一旦他のことをやったりして、今の仕事からまず離れてみるとか、あと、何も考えない時間をつくるとかですかね。お風呂に入って何も考えずにぼーっとしているときにぽっと出てきたりします。逆に考えすぎると、煮詰まってしまって逆にダメっていうことも結構ありますね。「アイデアはどうすれば出るのか」系はクリエイターがよく投げかけられる質問だと思いますが、その度クリエイターの皆さんは「お風呂に入っている時に思いつく」とか、よくある回答だと思うんです。実際そうですし、私もまさにそう回答しました。でも、勘違いして欲しくないことがあって、デザインは全てがいきなりぽっと出てきたアイデアではない、ということです。あるものを作るために下調べしたり、スケッチしたり、そういったことを経た上で、アイデアは出てくるものです。

―インプットの部分で努めていることはありますか。

最近は、宮城県美術館に展示会を見に行きました。絵本を描いてる方の原画展示だったのですが、デザインをやっていると、描いてから絵本が出来上がるまでの流れのほうに目が行くんですね。もちろん原画ならではの本人の手の痕跡は見ていて楽しいんですけど、「絵本であれば、こういうサイズにこんな感じで描けば、読者はこういう目の流れで行くな」とか、そういった「作者の意図」に目が行くようになりました。デザインをやってなかったら、「原画きれいだな」で終わっていたと思うんですけど。

取材日:平成30年5月21日
聞き手:仙台市地域産業支援課、岡沼 美樹恵
構成:岡沼 美樹恵

 

前編 > 

千坂 まこ

宮城県宮城野高校美術科、宮城大学デザイン情報学科を卒業。

2017年から、グラフィックデザイナーとして合同会社マイチデザインスタジオに勤務。同時期より、イラストレーターとして活動を始める。

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