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クリエイターインタビュー後編|佐立 るり子(美術家)

何がやりたいのかを自分で見つけ、それをどのように実践していくのかが大事だと思います。

美術家・佐立るり子さんは、作品制作を行うとともに、子どものための畑と造形の場「アトリエサタチ」を運営している。食と表現を通じ、いかに生きるかを考え、選択していく人間の根本的な能力を追求する佐立さんに、活動の中で抱えている思いを伺った。

 

―「アトリエサタチ」を立ち上げられた背景を教えてください。

5年前に子どもが生まれたのですが、子育てをする中で、自分が農業を通じて大切にしてきたことを伝えないといけないなという気持ちはあったんですね。そうしたら、アトリエの大家さんが畑を所有されていて。子どもを保育園に預けるために、美術家としての活動実績を示す必要があったのと、大家さんの「やってみたら?」という言葉に後押しされて、事業の一つとして始めました。子どもと一緒に何かをするのは、人間が生まれてから成長していく間に、獲得していったりなくしていったりするものを観察しているようで、とてもおもしろいですよ。ものの見方が変わりますし、子どもと接することも美術の範疇だなと感じています。

―どんな体制で運営されているのですか?

造形作家のさくまいずみさんと私の2人体制です。未就学児から小学校中学年まで18人くらいのメンバーがいて、基本的には月〜木曜の好きなときに、お子さんの都合でご参加いただいています。“自分で決める”がコンセプトなので、いつも子どもたちには、何をやりたいかというところから考えてもらっていますね。決まった範囲・材料で取り組むのではなく、様子を見ながら何をしたいか試していくような感じです。それが高じて、奥会津の山学校(前編参照)に、伐採見学と木登り体験をしに出かけたことも。できるだけ、やりたいことを突き詰められる場にしたいなとは思いますね。

左:アトリエにある駄菓子の購入ルールは子どもたちが考案。「アトリ円」という独自の通貨も。 右:活動中の食事は子どもたちが自分でつくる。アトリエの壁にはある日のタコライスのレシピが。

―普段の活動についてもお聞かせいただきたいです。

“自分で決める”といっても、こちらでも「今日は畑ですよ」と環境を準備したり、やることを提案したりはするんです。でも、中には「やりたくない」と言う子もいるし、「これがやりたい」「あれがやりたい」とそれぞれの主張がある。とはいえ、一人ではないからこそ、折り合いをつけないといけないこともありますよね。そういうときは、子ども同士で話し合ってもらいます。「本当に困ったら相談して」と伝えて、本人たちに任せていますね。あと、今秋はロケットストーブを使って、みんなでスープをつくって食べたんですよ。そのときは、お皿を舐めていいのかどうか?という議論になりました。私が「おいしいから舐めたほうがいいんじゃない?」と言ったら、子どもたちが「そんなことは絶対にしちゃいけない」と反応して、「じゃあ実際にレストランに行ってやってみる?」と話が展開していったんです。やっぱり、当たり前に日常に馴染んでいるルールについても、自分自身で判断してほしいというか。周囲の人を不快にさせてまで自分がしようとしていること、あるいはしたくないこととはなんなのか。ほかのお客さんはどう感じるか、サービスを提供する側の人だったらどんなふうに対応するか。いろんな立場や関係性がある上で、自分ならどうするのかを現実的に考えられたらいいなと思いました。

―自分自身の価値観や他者との関わりを、改めて意識する機会になりそうですね。

はい。それから、“食べる”ということも、もう一つのコンセプトとしてすごく大切にしています。畑仕事をしていると、じゃがいもを植えた頃に新じゃががスーパーに出てくるなど、流通の様子が見えてくるんですね。自然と「私たちは植えたばかりなのに、どこで獲れたんだろう?」という会話が生まれていく。あと、参加している子どもに「じゃがいもが獲れたら何で食べる?」と聞いたら、「コロッケとポテトフライ」と言っていたんです。それで、収穫時に実際に調理して食べてみたら、いつも目の前にポンと出ていた料理が、自分に地続きのものになって感じられたようで。食べものから世の中の動きが見えてくることはあると思うんです。やっぱり子どもたちには、あるものをそのまま受け入れるのではなく、自分で選択して生きていくために、社会とのつながりを知ってほしいですね。

取材に訪れたのは2019年11月20日。畑では大根やにんじん、ローズマリーなどが育っていた。

―アトリエを運営する中で、やりがいや難しさを感じるのはどんなときですか?

おもしろいという気持ちから続いていることなので、それはやりがいと言えます。一方で、収益を上げるのは難しいですね。活動を維持していく上で、余裕のある状況とは言えないというのが現実的なところです。でも、お金になるからいいとも限らないと思っていて。アトリエは、何がやりたいかを自分で見つけ、それをどのように実践していくかという場ですし、うまく儲けられればいいということでもないんですよね。すぐに市場価値に結びつかなくとも、大切なことはあるような気がします。

―これからやっていきたいこと、目標はありますか?

作品制作もアトリエも、より納得できるところまで、このまま追求していきたいです。アトリエはいつまで継続するかまだ漠然としているのですが、子どもと関わる仕事はこの後も続けたいですね。成長の過程って本当に不思議なんですよ。だんだんと主張を持ち始めて、ちょっと友だちと揉めるとか、活動に関心がなくなっていくとか(笑)。それぞれペースは異なるにせよ、みんな同じステップを経て、自我をもったひとりの人になっていくんだなと、見ていてすごく感じますね。

―では最後に、クリエイターとして活動したいと考えている方に向けて、メッセージをお願いします。

自分のやりたいことをやってほしいです。アトリエのコンセプトとも通じるのですが、“できるからやる”ではなく、“やりたいことをするにはどうすればいいのか”と考えていくといいんじゃないかなと。まずはやりたいこと。できる・できないはその次でいいんです。そこから、実現する上での課題をあぶり出して、それをクリアする方法を考える。そういう順番で取り組んでいくことで、状況は変えていけると思います。

取材日:令和元年11月20日
取材・構成:鈴木 瑠理子
撮影:小泉 俊幸

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佐立るり子

1973年宮城県石巻市生まれ、仙台市在住。宮城県農業短期大学畜産科卒業。美術家として作品制作や展示を行いながら、子どものための畑と造形の場「アトリエサタチ」を主宰する。近年のおもな個展に「思考の森」(SARP2019年)、「デジタルと感覚」(Gallery TURNAROUND2019年)などがある。

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