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ハヤシ印刷(前編)頼まれたらやってみる、やってみないと始まらない

立体物への印刷やリフォームオーダークロスの独自ブランド「リクロス」、さらには印刷業の枠を超えて内装工事も手掛けるハヤシ印刷。事業展開の狙いを林克己社長に伺うと、見えてきたのは打算的な考えではなく、顧客の要望に応えたいという気持ちだった。さらにもう一つ重要なことは、それを実現するために欠かせない「仲間」の存在。相手が困っているなら、採算はともかくみんなでまずはやってみる。楽観的で人情的なそのストーリーをご覧あれ。

頼まれたらやってみる、やってみないと始まらない

―まずは御社で手掛けている壁紙「リクロス」についてご紹介いただけますでしょうか。

林 パソコンで作ったデータから制作できるリフォームオーダークロスで、好きなデザインを壁紙に施して簡単に空間イメージを変えられるというものです。

パソコンで作ったデータから壁紙が製作できる「リクロス」施工例

病院にアーティストさんの作品を印刷した壁紙を貼ったり、パン屋さんの壁紙にはそこで働く障害者の方たちが描いた絵を印刷したり、飲食店のトイレの内装にはそのお店の方のお母さんが作った着物の柄をプリントしたりといった事例があります。

葛岡にある大聖寺の壁紙には、もともと大聖寺があった今の錦町公園周辺の古地図が印刷されています。マンションのモデルルームでは、お客さんが来たときに真っ白だとつまらないということで、仙台の街並みの写真をプリントしました。震災で南三陸町を離れた方が、移り住んだところからは海が見えないのでビーチを壁紙にしてほしいという注文もありました。

長町のパン店の壁紙。店で働く障害者の方たちが描いた絵を印刷した

―もともと何がきっかけで始められたんでしょうか。

林 最初は別の印刷の打ち合わせでお伺いしていたお客さんとの雑談でした。自宅の天井を空のようにできないかというので、知り合いの職人さんに電話して教えてもらって、既製品を購入して持っていったら気に入ってもらえなくて。何なら気に入るのか聞いたら、自分で撮影した写真を見せられて、これにしてと。そのデータを印刷してみようということで始めたんです。

それまでにもボールやブロックメモ帳、升やスマホケースなどさまざまな素材に印刷は行っていたんですが、壁紙の印刷は初めてでした。メーカーさんに聞いたら印刷できる壁紙はあるけれど、やったことはないというんですよね。メーカーさんがやったことないというくらいでしたので、当社でできるようになるには2年くらいかかりましたね。

ボールやネイル、ブロックメモなど立体物へのプリントも得意とする

―どういうところで苦労されたんですか。

林 印刷した絵が剥がれるんです。壁紙も印刷の紙と同じくらい種類があって、それを一つ一つテストしながら、これだったらいけそうだというのでたどり着いたのがいま使っている素材です。

リクロスを印刷から施工までするようになって、そこから広がっていまでは棚の取り付けやカウンターの設置など、内装の仕事まで受けるようになりました。あるとき飲食店の内装を施工したんですが、最初の打ち合わせに行ってみたらびっくりで、図面も何もない。でも1〜2週間でオープンしないといけないというので、その場で頭の中のイメージを聞いて、何とか仕上げました。

―もう印刷会社の仕事ではなくなってきましたね。

林 内装の仕事で印刷が関係あるのは、貼ってあるクロスとか看板とかですかね。何でもやればできるんだなと思いました。一度やってしまえば「できます」と言えますし、家具屋さんなどそれぞれの専門の仲間もたくさんいるので、分からなかったら聞けば何とかなります。

こういうこと(SC3)をやるにしても、そこが一番重要だと思いますよ。仲間がいないとできない。リクロスのような壁紙をいくら作っても貼る職人さんがいないと何もできないように、クリエイターがただ漠然とものを作っても、その後の処理ができないと何にもなりません。

いま大工さんの平均年齢何歳だか知ってますか? 68.4歳です。内装屋さんも60歳を超えて、左官屋さんに至ってはもう70歳近い。もったいないことに、そういう職人さんたちは自分で営業することはほとんどないので、支援する意味もあってクロス貼りなどは職人さんに頼んでいます。

逆に、そういう仲間がいて、専門の機械があれば、だいたいのことはできると思っています。だから、お客さんから「こういうことができないか」と言われたら、うだうだ言わずに取りあえずやってみようと思います。もうからないですけどね。

取りあえずやってみる、の精神で実現したさまざまな事例を紹介する林社長

―あまり採算は考えずに。

林 しょうがないですよね。やってみて駄目だったら、ああずいぶん損しちゃったなと。でもやってみなければ始まりません。実際のところ、専門の業者にお願いする予算がない方が苦しいから何とかしてほしいとお願いされることが多いんです。それをこうやってああやってと助けていくのを増やしていけば、後で返ってくる可能性はあるのかなと、気楽に思っています。

―実際、後で返ってくるのはどれくらいなんでしょう。

林 それが、返ってこないから困っちゃいますよ。1割くらいでしょうか。取っ掛かりは誰でも苦しいだろうから手伝ってあげて何とかするんですけど、もうかってくるとうちではなくてしっかりしたところに高いお金を払って依頼するんですよね。もう恩も義理もない(笑)

カメラマンさんも分かるでしょう。今回は予算がないから申し訳ないけど2万円でやってくれないかと。まともにやったら割に合わないけど、今回はいいですよと言って撮ってあげて、それで景気がよくなってきたみたいだなと思ったら、別のところに倍ぐらいの値段で頼んじゃう。えー!ってなりますよね。

 

松橋(カメラマン) そういうこと、ありますね…。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

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