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クリエイターインタビュー後編|渡邉 竜也(グラフィックデザイナー)

相手の「伝えたいこと」を、ちゃんと伝えるお手伝いがしたいです。

東京のデザイン事務所を経て独立後、仙台を拠点に定めたグラフィックデザイナーの渡邉竜也さん。相手の「伝えたいこと」に丁寧に向き合い、普遍的で飽きのこないデザインを探求し続けている。彼はどのような未来を見据え、仙台に居を移したのだろうか。仙台を拠点とした理由や仕事への考え方を伺った。

 

-フリーランスとして独立した渡邉さんが所縁のある山形や東京ではなく、仙台を拠点に選んだ理由はなんですか?

最初は具体的にどこを拠点にするのかは決まっていなかったのですが、もともと東北でデザインの仕事をしたいとは思っていました。東京の広告代理店などで地方のリブランディングが流行っている時期があって、いまは大分意識が変わっているかもしれませんが、東京で地方の仕事をしても出来上がったパッケージやデザインに地方の雰囲気がなくなってしまって魅力が半減しているものが多かったんです。僕はそういうのが嫌だったので、だったらちゃんと地方に住んで土地柄の雰囲気なども汲み取った仕事がしたかったんです。あと、拠点とする場所だけの仕事をするというよりは、広い範囲で他地域の仕事ができたらいいなという希望もありました。山形はずっと長く住んでいたから別の場所に住んでみたいと思っていたし、仙台はすごく暮らしやすそうなイメージがあったので仙台市を拠点にすることにしました。

-仙台を拠点にして良かったことはありますか?

実は仙台に住んだらやりたいことがあったんです。仙台って大学がたくさんあるから、研究職の方もたくさんいらっしゃると思うんです。研究者は研究のプロですが、伝え方や見せ方のプロではないのかなと感じていました。そこにデザイナーが入ることで、有意義なことを広く知ってもらうためのお手伝いはできないかと考えていました。それを友人に話したら地域創生を専門としている先生を紹介してくれたんです。山の恵みや空き家などを見直して町の魅力として伝えたり利活用して事業に展開するなど、改めて地域資源を考えるワークショッププログラムを開発しているのですが、そのグラフィック部分のお手伝いをできたことはとても嬉しく思っています。

-その他で印象的な仕事はありましたか?

最近だと牡鹿半島の鮎川にある「牡鹿半島ビジターセンター」という施設の展示グラフィックを担当しました。「みちのく潮風トレイル」()という福島県相馬市から青森県八戸市までトレッキングするコースが開通したんですけど、そこはただの休憩拠点としてだけでなく、牡鹿半島の民族史や住民の営みなどを見て学べる空間でもあります。牡鹿半島に足を運びながら作っていたこともあり、住んでいる人の知恵や信仰がとても興味深いなと感じたんです。地方に住んでいますし、土地ごとの営みなど民俗学的なところも気になっていて、何か知見を広げて引き出しを増やすことができたら、日常生活や様々な仕事に応用できるのかなと思っています。

※青森県八戸市から福島県相馬市までの太平洋沿岸をつなぐロングトレイル

渡邉さんが担当した、「牡鹿半島ビジターセンター」の展示グラフィック。

-「仕事としてのデザイン」と「自己表現としてのデザイン」の間で悩むことはありますか?

悩んでいたときもありますが、経験上、自分のアピールポイントをどこに入れるか考えて制作すると絶対に失敗するタイプだとわかりました(笑)。僕はクライアントの望むことをすくいあげ、それを整理するためにどんな色を使うかを考えるほうが楽しいし、結果を見てもちゃんと成功している気がします。そのためにはコミュニケーションを取ることが大切なんじゃないかなと思います。フリーランスになってからは、もちろんデザインの実作業も楽しいのですが、人と会って話しをしながら相手の「伝えたいこと」を聞き出し、探す時間が特に楽しく感じています。

-その想いが普遍的なデザインに繋がるのかもしれませんね。

普遍的なものにするためには、その時に伝えたいことがしっかり入っていることが重要だと思います。例えばチラシを手に取った人がウェブサイトにアクセスしたり、その先の行動に移るようにしなければいけないと思っているんです。だからクライアントの希望は引き出したいし、そのやりたいことに対して入れ込みたい要素がずれていたら意見することもあります。希望がやりたいことと絶対に合わないと思っても、もしかしたら可能性があると信じてチャレンジはしてみます。そのほうがクライアントの方も一緒に作っている感覚があるし、出来たものに愛着を持ってもらえると信じています。

-今後、挑戦したいことはありますか?

学生時代はコラージュ作品を制作したりドローイングも描いていたんですけど、最近になってまた手を動かすことをやりたいなと思い始めています。友人のCDジャケットの絵は自分で描いているのですが、もっと自分自身で発信していきたいです。

渡邉さんのドローイングが施された作曲家Babi(バビ)さんのアルバム 「6色の鬣とリズミカル」(左)と「Botanical」(右)のCDジャケット【画像提供:渡邉竜也】

-最後にクリエイターを目指す方へメッセージをお願いします。

思いやりを持つことでしょうか。例えば、メールを送る際に補足がたくさんあるときの伝え方やデータがいくつかあったときのまとめ方とか、相手の立場になって「分かりやすさ」を想像しなきゃいけないと思うんです。こちらでは分かっているけど相手は分かっていないことって結構ありますよね。添付データを何個もダウンロードしなきゃいけないなら、1つにまとめて1回ダウンロードで済むようにするとか。そういう些細な気遣いがとても大切なんじゃないかなって。それが当たり前になると小さなミスに気づくことができたり、仕事以外でも色々なところに気づけるようになるんじゃないかなと思います。

取材日:令和元年11月29日
撮影協力:わでぃはるふぁ
取材・構成:佐藤 綾香
撮影:はま田 あつ美

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渡邉竜也

1986年、山形県生まれ。東北芸術工科大学卒業。2017TAKAIYAMA inc.を経て独立。拠点を宮城県仙台市に移す。VICI、シンボルマーク、ロゴタイプのデザインをはじめ、サイン計画、パッケージデザインなど、グラフィックデザインを軸に企画・制作を行います。

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